日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『さあ、しゃしんをとりますよ』 福本友美子

(月刊「こどもの本」2015年11月号より)
福本友美子さん

レトロなおかしさ

 今はデジカメでも携帯電話でも簡単に写真が撮れるので、幼い子どもでも、すっかり「はい、ポーズ!」に慣れてしまいました。けれどもちょっと昔は、写真を撮ってもらうのが一大イベントだったのです。この絵本に登場するのは、大きな箱型のカメラに黒い布をかけ、その中にはいってシャッターを切る、昔の写真屋さんです。
 物語の舞台は、「はずれもはずれ、ながい道をこの世のはてかとおもうほどあるいたところに」ある靴屋さんの家。のんびり楽しく暮らしていた靴屋さん夫婦は、結婚記念日に写真を撮ってもらおうと思い、写真屋さんを呼んできます。家の前で撮ることにしましたが、やれニンジンを持ったほうがいい、やれ帽子をかぶったほうがいい、となかなかポーズが決まりません。そのたびに「しゃしんは、ありのままがいいんですよ」と写真屋さんが言うのに聞く耳をもたず、てんやわんやを繰り広げた挙げ句に撮れた写真は……?
 この絵本を読んだ方から「一人で大爆笑」「ああおかしい!」などの感想をいただきました。昔話のような繰り返しで盛り上がり、一体どうなるのかと思わせて、最後に思わぬどんでん返し。私は、このレトロな雰囲気の中に漂う何ともいえないおかしみが伝わるようにと願いながら翻訳をしました。訳しながらもじわじわと笑いがこみあげてしまい、早くだれかに読んであげたい、と待ちきれませんでした。
 絵を描いたトミー・デ・パオラは、アメリカの人気作家で、ほのぼのした画風は日本でもファンが多いと思います。昔話をもとにした絵本や、自伝的な絵本を数多く出しています。私も彼の作品を翻訳するのはこれで七冊目になりました。
 数年前アメリカに行った時に、はじめて本人に会うことができましたが、冗談を言ってはよく笑う、とても明るい人でした。彼の絵は直線が最小限、ほとんどが曲線でふくよかなイメージです。それが温かみとユーモアを醸し出していますが、本人の丸々とした風貌は、まさにその絵にそっくりでした。

(ふくもと・ゆみこ)●既訳書にT・デ・パオラ『ポップコーンをつくろうよ』『絵かきさんになりたいな』など。

『さあ、しゃしんをとりますよ』
光村教育図書
『さあ、しゃしんをとりますよ』
ナンシー・ウィラード・文
トミー・デ・パオラ・絵
福本友美子・訳
本体1、300円