子どもたちに心ふるえる物語を
3・11のあとの原発再稼働への動き。児童ポルノ法改正、特定秘密保護法、集団的自衛権。その動きを無言で支える人々。大きな犠牲があっても繰り返されるこの国の構造。このままいけばどうなるのか? 危機はそこまで来ているのに、いま何をしなければならないかわからない……。デモに行き、小さな集まりを持つ。古典の講座や、日本ペンクラブ「子どもの本」委員会で、フォーラムを企画する。……だが、児童文学の作家なのだ。やるべきことは、本当はただひとつ。子どもたちに、心ふるえる「物語」を手渡すこと。
……しかし、それはいったいどんな物語であるべきなのだろう?
3・11の前から、ずっとあたためていた物語のかけらがあった。それが、またしても心の中でふつふつと鎌首をもたげる。この話が、なぜ今、蛇のようにわたしの脳裏をかすめる?
そんな時に出会ったのが、そうえん社の小櫻さんだった。おそるおそる、突拍子もないその話のイメージを語ってみる。
「……洪水で流された小学校の代わりに航空母艦がやって来る、という話なんだ」「おもしろそう!」
ストレートに受けとめてくれた編集者。その夏、3・11のあとにはじめた、個人主催の小規模なサマーキャンプで、印象的な子どもたちと出会う。
それらが煮詰まって、一か月ほどで、「これまで何度も逃げられた一匹の蛇」を、なんとかつかまえ、一巻の絵巻物にして檻に入れることができた。
「大人のツケをわたしたちが払わなかったら、それは結局、子どもに残されるだけだよね」と語りだす登場人物。
物語の力はすてきなスタッフを選び、イラストも、恒例の「地図」も楽しく仕上がり、作り手側の熱意や愛のこもった本になった。あとは予断と偏見なしに読んでいただけるかどうかだ。
いま、登場した子どもたちが口々に語りかけてくる。
「早く、つづきを書いて! もっともっと活躍させて!」と。
(しばた・かつも)●既刊に「ドーム郡」シリーズ(全3巻)、『ふるさとは、夏』など。
そうえん社
『空母せたたま小学校、発進!』
芝田勝茂・作
倉馬奈未×ハイロン・絵
本体1、300円