丘の木のあるところ
町はずれの丘の上に立つ、一本のカシの大木。町のだれもが愛してやまない通称「丘の木」が、突然人手にわたり、伐られそうになる。物語の主人公きつねのコンチとぶたのトントにとっても、大好きな遊び場を失いかねない一大事。そんな折も折、コンチの小さな嘘がきっかけで、二ひきは見も知らぬくまのおじさんと知り合う。
じつは、このくまさんこそが、丘の木を手に入れようとしている大金持の実業家。ジーパン姿でバイクを乗りまわし、謎めいた行動で周囲を驚かす。くまさんのお目当ては当初丘の木一本だけだったが、この木に寄せる住民たちの深い思いを知るや、急ぎ計画を変更。ホテルを建てるという名目で、丘の木を広い土地ごと買い占める。いつ伐ろうと何に使おうと、くまさんの意のままになるという目論見なのだ。
一見、丘の木の存亡をめぐる物語ではあるものの、見どころは別にもある。その展開につきまとう、いくつもの嘘の登場である。五ひき(コンチ、トント、トントの母親、その友人、くまさん)による大小さまざまの嘘が、入れかわり立ちかわり顔を出してくる。それぞれの嘘に直接的なつながりはないものの、丘の木をめぐって、からみ合い、まじり合いながら、話の進行にかかわっていく。
その中には、心ならずもついた嘘もあれば、嘘とは知らずについた嘘もある。面白半分のふざけた嘘やら、芝居がかった手のこんだ嘘やら。子どもの嘘あり、おとなの嘘あり。とびきりの大嘘つきは、丘の木の持主となったくまさんにつきよう。かくて、てんでんばらばらの嘘は、かさなり合いながら丘の木にゆきつき、物語の幕切れへと近づく。
はたして嘘のゆくえは。丘の木は伐られてしまうのか。くまさんがそんなにも欲しがる理由とは? それらのすべては最終場面、夏の午後の丘の木の下で明らかにされる。小学生の読者たちが謎ときを気にしながら、ぐいぐいひきつけられて読んでくださることを願っている。
(もりやま・みやこ)●既刊に『まねやのオイラ旅ねこ道中』『おとうとねずみチロのはなし』『みずたまり』など多数。
講談社
『丘の木ものがたり』
森山 京・作 ふくざわゆみこ・絵
本体1,300円