小さな『世界』
水郷と呼ばれる九州の小さな町で育ちました。
市街地を中位のから小さいのまで沢山の堀割が走り、幼稚園児でも水遊びできるような浅い所もそこここにありました。
洗い物をしたり舟を着けたりするために、汲ン場(くんば)と呼ばれる木組みのデッキ状のものが川に張り出していて、ある日その汲ン場から川に入った小さい私は、水中メガネ越しに何となく木組みの下をのぞき込んで、暗い水の中に板の間から洩れる陽の光がキラキラと踊っていて、ちいさな魚がいて水草が揺れているのに一瞬見とれてしまいました。
それは何か小さな宝物のような景色でした。
今、我が家のベランダにはメダカの水槽があって、故郷からきた水草も生い茂っていて、そしてそれを毎日のようにのぞき込む私は、あの汲ン場の下をのぞき込んでいるあの子供です。
新しい絵本『おたすけこびととあかいボタン』では、ナントこびと達はメダカの水槽に潜って行きます。
原作のなかがわちひろさんが私の水槽好きを汲んでくださったようです。
思えば小さいヒト達にとってミニチュアの世界は限りなく楽しく遊べる所で、水槽の中に潜って行く事、ジオラマの中の電車に乗る事、草ムラの中に入って行く冒険等々いとも容易に入って行きます。
ところで私は大人になってから一寸不思議な体験をした事があります。
私は空港に着陸しようとしている飛行機の窓から近づいてくる地上をのぞき込んでいました。
コンテナの集積場が見えて来て、数えきれない程沢山で色とりどりのコンテナは整然と並んでいて、その間を大型のトラックが動き回っていました。
突然私はとんでもなく精巧に造られたミニチュアの世界を見ている気分になって、鳥肌が立ちました。一体だれが気の遠くなるような時間をかけて造ったのでしょうか。 この、我ら人類という「こびと」の大事な大事な世界。
コヨセ・ジュンジ●既刊に『おたすけこびと』『おたすけこびとのまいごさがし』(以上なかがわちひろ/文)など。
徳間書店
『おたすけこびととあかいボタン』
なかがわちひろ・文
コヨセ・ジュンジ・絵
本体1,500円