あの子を待ちながら
記憶力はそれほどいい方ではありませんが、小さい頃に誰かを待っていた時の記憶というのは、なぜだか鮮明に覚えています。
公園で友達を待っていた時に吹いていた風の感じとか、退屈しのぎに地面に落書きをした時の土の手触りとか、目を細めるくらいに眩しかった日差しとか。そういったものまでもが、誰かを待っていた時の感覚として、妙にはっきりと記憶に刻まれています。
遊んでいる時間はあっという間に過ぎてしまうのに、友達が来るのを今か今かと待ちわびている、あの時間の長いことといったら。
喫茶店で知り合いが来るのを待ちながら、ふとそんなことを思い出した時に、ああ、そうだ、「誰かを待つ」ということを書こう、と思いました。たとえば、約束の場所で、友達が来るまでの十分間。このほんの短い時間を物語にしてみたい。早く友達に会いたくて、いてもたってもいられなかった、あの永遠にも思える待ち時間を書いてみたい。できれば、丁寧に、じっくりと。それが、この作品を書くきっかけでした。
『ずっとまっていると』は、タイトルのとおり、最初から最後までずーっと待っているお話です。六十四ページもあるのに、場面すら変わりません。変わるのは主人公の女の子の頭の中。なかなかやって来ない友達を約束の場所でじっと待ちながら、いらいらしたり、心細くなったり、そうかと思うと、急に楽しくなったり。女の子の気持ちは、くるくると変化して大忙しです。
物語に登場するカエルが言います。
「まあまあ、ゆるりとまちましょう」
この本を手にとってくれた方が、ほんの束の間、女の子と一緒にのんびりと「待つ」ことを楽しんでくれたなら、うれしいです。
大人も子どもも忙しい毎日に、「待ち時間」なんて一見無駄なようにも思えます。でも、まだやって来ない誰かさんに想いを馳せて待つこと。これって実は、すごく贅沢で豊かな時間なのかもしれません。
(おおくぼ・うさぎ)●本書が初の著作。
そうえん社
『ずっとまっていると』
大久保雨咲・さく 高橋和枝・え
本体1,200円