「はやぶさ」がくれた縁
私が『はやぶさがとどけたタイムカプセル』を脱稿した時、「はやぶさ」帰還から既に一年が経過していました。 にもかかわらず、「はやぶさ」の人気は衰えていませんでした。何本もの映画が公開を控え、「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の研究成果は、その都度報道されました。先進諸国の中で、科学リテラシーが低いと指摘されている日本では、驚くべき注目度です。
「はやぶさ」は、幾多の苦難を乗り越え、微粒子の入ったカプセルを地球に届けるために、最後は流れ星となって夜空に散りました。健気ともいえるその姿に、多くの日本人が涙したそうです。一時のブームかもしれませんが、日本の宇宙開発に光が当たったことは、私にとって喜ばしい出来事でした。
というのも、「はやぶさ」には、私自身特別な思いを抱いているからです。打ち上げ前年に当たる二〇〇二年、天文雑誌のライターでもあった私は、「星の王子さまに会いに行きませんか」という宇宙研(現JAXA)のキャンペーンをPRする側にいました。「はやぶさ」が小惑星イトカワに着陸する際の目印となるターゲットマーカーに応募者の名前を刻み、星に残そうという試みです。私も応募したので、今もイトカワ上に名前が残っていることになります。
また二〇〇二年は、私が作家を目指して勉強を始めた年でもあります。その二つがリンクし、二〇一〇年「はやぶさ」帰還の年に、「はやぶさ」の物語を書く機会をいただきました。「はやぶさ」の冒険の始まりと終わりに、書き手として関わることになるとは、何とも不思議な縁です。
執筆に当たり腐心したのは、子供向けにどうデフォルメするかという点です。大人でも難解な専門用語を、科学的事実をなるべく曲げず、子供が楽しみながら理解できるようにしなくてはなりません。そこで、「はやぶさ」に人格を持たせ、一人称で語る形を取りました。拙著と出会った子供たちの中から、将来は宇宙に関わる仕事に就きたいと思う子が一人でも出てくれたら、天文好きの著者として望外の喜びです。
(やました・みき)●既刊に『ケンタのとりのすだいさくせん』。
文溪堂
『はやぶさがとどけたタイムカプセル』
山下美樹・著
本体1,300円