日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本57
ひさかたチャイルド 佐藤 力

(月刊「こどもの本」2014年8月号より)
ぼくはめいたんてい

こかげで ほっ♪
みなみじゅんこ/さく・え
2014年6月刊行

 絵本の企画がどんなふうに立ち上がっていくのか、その過程はさまざまです。編集者から依頼することもあれば、作家さんから持ち込んでいただくこともあります。でもときどき、どちらからボールを投げたのかよくわからない、気づいたら企画に持ち上がっているということがあります。

『こかげで ほっ♪』は、そんな自然な流れで企画が成立した作品です。もともと、作者のみなみじゅんこさんとは、『てとてとだんごむし』『ととととだんごむし』で編集を担当させていただいてからのおつきあいです。

 ある日、今回の企画とは別件でお会いし、喫茶店で雑談をしていたときのこと、みなみさんは、絵本の種のようなスケッチを広げながら「夏のこかげって、ほっとしますよね」とおっしゃったのです。もともと、畑を耕したり、花を育てたりするのが大好きなみなみさんですから、暑いときのこかげの安らぎを日々感じていらっしゃったのだと思います。その瞬間、私は、こかげがテーマの絵本があったらすてきだなと、心がわくわくして、気がつけば「是非それを作品に!」とお願いしていました。

 それからというもの、みなみさんは絵本の構成をいろいろと考えながら、夏の色の「採集」を始められました。それはまさしく「採集」と呼ぶにふさわしいものでした。みなみさんは、例えば露草色とか若竹色など、洋名ではなく和の色名が思い浮かぶ色彩感覚の作家さんです。夏の抜けるような青空や強烈な濃い緑は、みなみさんの素の色事典にはあまり登場しない色だったと思います。

 みなみさんは、まずは夏の色がどんな色なのか、スケッチをしたり、写真を撮ったり、色チップと自然を対比させたりして、夏の色をたくさん採集していきました。取材ノートには、ずらりと標本にされた色たちが並び、作品の本描きで選ばれるのを今か今かと待っているようでした。

 そうやって完成した『こかげで ほっ♪』は、みなみさんの和の色彩感覚と、色採集から得たリアリティがミックスされて、夏の風景と記憶を丸ごと閉じ込めたような作品になりました。暑い日差しからこかげに入ったときの安らぎや風をうけてスーッと汗がひいていくときの心地よさ…。そうした「ほっ」とした気持ちが見事に表現されています。

 この絵本を親子で読んでくださったあと、公園に散歩にでかけてこかげに入るとき、どちらからともなく「こかげで ほっ♪ だね」なんて会話があることを期待している私です。

『こかげで ほっ♪』は「こどもの本」がみなさまのお手元に届く頃には、書店に並んでいる予定です。是非、手にとっていただけたらと思います。