ファンタジーと子ども
リディアは十二歳のスウェーデン人の女の子。絵を描くのが大好きで、ある時、部屋の壁いっぱいにジャングルの絵を描いてしまいました。お母さんやお父さんはもちろん、かんかん。でもおじいちゃんはリディアを寛容に受け止め、見守ってくれていました。
ある日おじいちゃんと美術館に行ったリディアは、レンブラントの絵に心惹かれ、つい手を伸ばしてしまいます。とたんに闇に飲まれ、意識を失うリディア。目を覚ますと、そこは何とレンブラントの生きていた時代のアムステルダムでした。さらにリディアはダ・ヴィンチやダリといった有名画家の時代にタイム・スリップし、画家としても人間としても成長していきます。
この本の翻訳作業の途中、私は作者のフィン・セッテホルムさんと、スウェーデンのブック・フェアの会場でお話する機会を得ることができました。
フィンさんは美術館に行ったり、美術書や画家の伝記を読んだりするのが趣味で、いつも、絵の世界に入れたらと想像していたそうです。フィンさんは童謡などを作詞、作曲し、歌手としてもスウェーデンでは有名な方なのですが、歌にしろ本にしろ、子どもはつまらないものには関心を示さないし、すぐに飽きてしまうから、面白い事柄を、選び抜いた言葉で示してあげなくてはならない、とお考えです。
作家になる以前から、歌手として既に有名だったフィンさんが、児童書を書くことを意外に思う人もいたようですが、ご本人にとってはごく自然な選択だったそうです。なぜなら作家でありJ・R・R・トールキンの作品などの翻訳をされていたお父様と、同じく作家だったお母様から、児童書をたくさん読んでもらって育ったからです。
子どもは遊びの中でお姫様や海賊に変身して、想像の力で世界を魔法に満ちた冒険の世界に変えてしまいます。フィンさんはファンタジーを書くことで、魔法に満ちた子どもの想像の世界に戻ったような気分を味わうとのこと。 読者の皆さんがリディアの冒険を存分に楽しんでくださったら嬉しいです。
(ひだに・れいこ)●既訳書に『ハエのアストリッド』『このTシャツは児童労働で作られました。』『エレンのりんごの木』など。
評論社
『カンヴァスの向こう側 少女が見た素顔の画家たち』
フィン・セッテホルム・作
枇谷玲子・訳
本体1,600円