日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本50
文溪堂 国頭昭子

(月刊「こどもの本」2013年11月号より)
ワンダ*ラ(全9巻・既刊4巻)

ワンダ*ラ(全9巻・既刊4巻)
トニー・ディテルリッジ/作、飯野眞由美/訳
2013年2月〜

「ワンダ*ラ」シリーズ(全九巻)は、「スパイダーウィック家の謎」の画家トニー・ディテルリッジ氏の、未来世界を舞台にした壮大なSF作品です。今回、彼はテキストも手がけ、画家としてだけでなく、作家としての才能も存分に発揮しています。

 ところで、遥かな未来を舞台にしたこの作品、始まってわずか数ページで、主人公エバが地上に出るための訓練中、毒蛇にかまれて死んでしまいます。え!? 始まってすぐに主人公が亡くなった? と読者は驚かれるでしょう。でも、大丈夫、それは精巧なホログラムを使ったバーチャル訓練で、読者は、まずショックを与えられ、そこから一気に作品世界へと引きずりこまれるのです。

 主人公のエバは十五歳、地下シェルターでロボットのマザーに育てられ、一度も地上に出たこともなければ、自分以外の人間に、一人も会ったこともありません。エバが地上に出るための訓練をしているのが冒頭のシーンです。そんなある日、恐ろしい怪物べスティールに襲われ、エバは、訓練が終了しないまま、地上に逃げ出さなければいけなくなります。ところが、初めて目にした地上は、全く知らない生き物が闊歩し、今までの訓練や教わったことが全く役に立たないところでした。途方にくれるエバ…。そんなエバに地上のあれこれを教えてくれるのが、セルリアン人のロベンダー。怪物べスティールといい、このロベンダーといい、何とも形容しがたい、ユニークなキャラクター造形は、前作同様、健在です。特に「宇宙人」という、やりたい放題(?)できる設定の他に、「地球上の生き物が変異した」設定のキャラクターが、とてもユニーク。人を二、三人乗せられる大きな動物オットは、実際は一ミリあるかないかのクマムシが元で、「荒野の殺し屋」と異名をとる体長二メートルを超える凶暴なサンド・スナイパーの元は、蝦蛄…寿司ネタです。

 このような個性的なキャラクター満載で、主人公エバの成長を縦軸に、横軸を「人類の再生」…環境悪化で地球上の生物は一度滅びた…という大きなテーマで物語は語られます。一冊あたり四百ページを超える原書全三巻を各三分冊した計九巻の日本語版の内、現在、五巻めを編集中です。これからどのように人類は再生する? 宇宙人との共存は可能? 一巻で出てきた謎の予言詩の行方は? …と、まだまだ解けていない謎がいっぱいです。…なんていってても、実は、結論はもうわかっているのでは? とお思いでしょうが、この作品に関しては、正真正銘、展開不明。現時点で、まだ原書第三巻=完結巻の中身はまったくわかっていません。今は、めいっぱい広げられた風呂敷をどう畳むのか…訳者と一緒に楽しみ半分、今までの設定が崩れたり、矛盾したりしないでね…と恐れ半分で待っているところです。