日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『こぐまのくうちゃん』 あまんきみこ

(月刊「こどもの本」2013年11月号より)
あまんきみこさん

くうちゃんのこと

「くうちゃん」は、娘が幼い時、かわいがっていた、小さな金色くまのぬいぐるみの名前です。金色といっても、すぐに茶色になり、焦茶色のまだらに変わっていましたが、ちっこい帽子の下と、短いズボンの中は、ちゃんと金色が残っていて、そのことが嬉しかったのでしょう、小さい娘は、よく、

「ほら、見て。ほら、見て」

と、そこをじまんしていました。

 若い母親だった私は、この「くうちゃん」達の話を、幼い娘と息子と、つづきのようにして、いっしょに楽しみました。近所の小さななかよしさん達がくわわることもありました。それは、子ども達の言葉でつないでいくので、いろいろに変わり、いろいろにふくらむという、その場、その場のおもしろい「あそび話」でした。

 その中で、子ども達が、立ちどまるように、「夢」の話に興味をもったことがあります。

「ゆめは、どこからくるの?」「ゆめは、どこで、見るの?」「目をつむっているのに、どうして見えるの?」

などときかれ、私は一緒に考えこみました。おそらくピリオドにはできず、

「そうねえ、そうねえ。ふしぎねえ」という曖昧な、カンマの表現しかできなかったと思います。

 それから数十年を過ぎて、私が作品を書いていた時、林の中でかけまわっているこぐまに出会いました。

 その時、私は、すぐに、

「くうちゃん?」

と、よんでしまったのです。すると、こぐまはふりむいて、「や」というように、片手をあげました。

 今回、描きあげられたばかりの絵を見せていただいた時、昔の「くうちゃん」がそのままよみがえっていて、おどろきました。

 このこぐまのくうと、こうさぎのぴょんこの「ゆめ」の世界のふしぎは、ずっとずっと昔の「あそび話」からのおくりものかもしれません。すばらしい絵の『こぐまのくうちゃん』が、小さなともだちの喜びになれば、どんなに有難くうれしいことでしょう。

●既刊に『車のいろは空のいろ』『ちいちゃんのかげおくり』、エッセイ集『空の絵本』など多数。

「こぐまのくうちゃん」
童心社
『こぐまのくうちゃん』
あまんきみこ・文
黒井 健・絵
本体1,300円