くうちゃんのこと
「くうちゃん」は、娘が幼い時、かわいがっていた、小さな金色くまのぬいぐるみの名前です。金色といっても、すぐに茶色になり、焦茶色のまだらに変わっていましたが、ちっこい帽子の下と、短いズボンの中は、ちゃんと金色が残っていて、そのことが嬉しかったのでしょう、小さい娘は、よく、
「ほら、見て。ほら、見て」
と、そこをじまんしていました。
若い母親だった私は、この「くうちゃん」達の話を、幼い娘と息子と、つづきのようにして、いっしょに楽しみました。近所の小さななかよしさん達がくわわることもありました。それは、子ども達の言葉でつないでいくので、いろいろに変わり、いろいろにふくらむという、その場、その場のおもしろい「あそび話」でした。
その中で、子ども達が、立ちどまるように、「夢」の話に興味をもったことがあります。
「ゆめは、どこからくるの?」「ゆめは、どこで、見るの?」「目をつむっているのに、どうして見えるの?」
などときかれ、私は一緒に考えこみました。おそらくピリオドにはできず、
「そうねえ、そうねえ。ふしぎねえ」という曖昧な、カンマの表現しかできなかったと思います。
それから数十年を過ぎて、私が作品を書いていた時、林の中でかけまわっているこぐまに出会いました。
その時、私は、すぐに、
「くうちゃん?」
と、よんでしまったのです。すると、こぐまはふりむいて、「や」というように、片手をあげました。
今回、描きあげられたばかりの絵を見せていただいた時、昔の「くうちゃん」がそのままよみがえっていて、おどろきました。
このこぐまのくうと、こうさぎのぴょんこの「ゆめ」の世界のふしぎは、ずっとずっと昔の「あそび話」からのおくりものかもしれません。すばらしい絵の『こぐまのくうちゃん』が、小さなともだちの喜びになれば、どんなに有難くうれしいことでしょう。
●既刊に『車のいろは空のいろ』『ちいちゃんのかげおくり』、エッセイ集『空の絵本』など多数。
童心社
『こぐまのくうちゃん』
あまんきみこ・文
黒井 健・絵
本体1,300円