日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本42
徳間書店 田代 翠

(月刊「こどもの本」2013年2月号より)
ぼくとヨシュと水色の空

『ぼくとヨシュと水色の空』
ジーグリット・ツェーフェルト/作、はたさわゆうこ/訳
2012年11月刊行

『ぼくとヨシュと水色の空』は、親友同士のふたりの少年を描いたドイツの児童文学だ。十歳の少年が互いを思いやり、相手を心配したり、ときには腹を立てたりする様子に、読者もきっと共感するのではないだろうか。

 心臓が弱いヤンと、そんなヤンをいじめっ子からかばってくれる体の大きなヨシュ。家庭環境も対照的なふたりだが、この本の版権を取得する前に検討用のあらすじを読んだとき、「川で拾ったナイフをふたりの宝物にする」というエピソードに心惹かれた。子どものころ、私もよく、拾った石ころを「宝箱」に入れたりしたものだ。子ども時代は、毎日がそんな宝物や、大小の事件にみちあふれていた気がする。ヤンとヨシュのふたりに起こる出来事が、子どもの目線でしっかりとすくい上げて描かれているところが、この作品の大きな魅力だと思った。

 翻訳をお願いしたのは、柔軟に言葉を選んで訳文を編みあげてくださる、はたさわゆうこさん。打ち合わせを重ね、ヤンとヨシュはどういう子でしょう?と話し合ううち、私もはたさわさんも、ふたりのことがすっかり好きになっていた。そしてはたさわさんは、原文の淡彩画のような味わいを残しつつ、ヤンたちの様子を生き生きと訳してくださった。

 ゲラを読み始めたころ、フランクフルト・ブックフェアへ出張することが決まった。ドイツに行くなら、著者にお会いできるかもしれない、と思い、原出版社の編集者を通じてコンタクトを取ったところ、運よく会っていただけることになった。お住まいは、ドイツの西端の古都アーヘンとのこと。フランクフルトからは特急で二時間程度だ。

 ジーグリット・ツェーフェルトさんは、一九八六年、学生時代に書いた『海がきこえる』(津川薗子/訳、佑学社)でデビュー。以来、著作は二十冊近くになるが、邦訳は本作が三作目。お会いしてみると、とても穏やかで親切な方だった。三人のお子さん(十七、十五、十三歳)の母でもある。ヤンとヨシュのこと、登場人物のアイディアはどのように生まれるのか、「生」や「死」というテーマが作品でよく扱われる理由など、質問に真摯に答えてくださった。ふだんは、もっぱら家族の出かけている午前中を執筆に充てる、とのことだが、「書くのはひとりの作業だけれど、登場人物たちといっしょだから寂しくないのよ」と、笑顔でおっしゃったのが印象的だった。インタビューの詳細を掲載した、徳間書店児童書編集部のニュースレター「子どもの本だより第一一二号」もご覧いただけるとうれしい。

 カバーには、きたむらさとしさんが、川で向きあうふたりのさわやかな絵を描いてくださった。読者のみなさんの胸の中でも、ヤンとヨシュが元気に動きまわってくれるよう願っている。