来る来る亭にようこそ!
僕、『おまけ鳥』の中に出てくるラーメン屋(来る来る亭)の息子、翔です。
「新作について書かなきゃならないんだけど、書けなくて」と作者の飯田さんが訴えてきたのは三日前でした。
「なんで? 自分の作品でしょ」
「だから書けないのよ。だって物語の中で書きたいこと書いちゃったんだもの。締切もうすぐなの。翔君、助けて」
「『おまけ鳥』もその前の『だんご鳥』の中でも、語りをやったのは僕だよ」
「でも、それ、思いついたの、わたしでしょ。だから、お願い」とわけのわからないことを言って、あげくに拝まれてしまいました。そう言われると断れない気の小さい僕です。
「店は猪突猛進の母、優柔不断の父、そしてちょっと他の人と違う姉・梓の三人で切り盛りしている。芳君という少年を迎えて、餃子講習会を開くことになった。講師は父さん」と、いい調子で始めたのに、
「そうそう、父さんたら講師になったとたん、やけに生き生きして。人はその人の持っている力が発揮出来たり、存在を認められるだけで、こんなにも輝くんだって改めて思っちゃった。障害があってもなくても誰だってそうよね。これ書きたかったことなの。それで店内を見回すと、ムム、梓ちゃんが何かを作っている。芳君と一緒に。このあとは翔君が話して」
突然飯田さんが割りこんできて、興奮してしゃべりだしました。
「全部話してしまわない方がいいと思うけど……」
あとは続けて、なんていったくせに、僕の意見などムシ、
「途中翔君が恋をしたり失恋したり、物語を進めていくの大変だったんだから」と、まったく口が減らない。
「思春期だもの、しょうがないじゃん」
とぶつぶつ言っていると、
「今、『おまけ鳥』の続編を書いてるんだから、翔君少し静かにしててくれる」
飯田さんはいつの間にかパソコンの前に座り、「大丈夫、翔君の恋もなんとか成就できるように頑張るから」
なんて勝手なことを言っています。
(いいだ・ともこ)●既刊に『だんご鳥』『シャトルバスにのって』。
新日本出版社
『おまけ鳥』
飯田朋子・作
長野ともこ・絵
本体1,500円