「富士山うたごよみ」のこと
富士山をモチーフにした、ユニークで楽しい絵の数々。U・G・サトーさんの作品が手元に届いたとき、小学三年生の息子がまず夢中になった。
「あはは、みーつけた!」絵の中に隠れている富士山を、目を輝かせて探している。私も、そのセンスのよさに魅了された。これらの絵が一冊の絵本になったら、大人も子どもも楽しめることだろう。
それぞれの絵に合う短歌を、自分の作品のなかから選ぶところから作業をはじめた。富士山と和歌。思えば日本文化の王道である。でも、ちっとも古めかしくならなかったのは、やはりサトーさんの絵のモダンさのおかげだ。
一冊の流れは、二十四節気にしたがった。二十四節気に、この絵本で初めてふれる子どもも多いことだろう。いや、短歌にだって初めて出会うケースも多いはずだ。
そこで、季節の言葉の解説や、短歌の理解に役立つ文章を入れることにした。でも、お勉強にはしたくない。そばにいる自分の息子に語りかけるような気持ちで綴っていった。
季節感ってどういうこと? 詩ってどういうもの? 言葉っておもしろいよね! この絵本をきっかけに、そんなことを子どもたちに感じたり考えたりしてもらえればと思う。また、この一冊をあいだにして、親子の会話が生まれてくれたら嬉しい。
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
最後のページに出てくるこの短歌は、小学校の教科書にも載っている。以前、この歌を教材にした学習用のプリントを見て、驚いた。短歌のあとに「意味」という空欄があって、そこに「意味」を書くようになっている。そして学習は、それでおしまい。
「意味」を伝えたくて短歌を作っているのではないんだけどなあと思った。意味ではない何かが、この絵本によって伝わりますように、と思っている。
(たわら・まち)●既刊に『あれから 俵万智3・11短歌集』『かーかん、はあい 子どもと本と私』① ②など。
福音館書店
『富士山うたごよみ』
俵 万智・短歌・文
U・G・サトー・絵
本体1,300円