狛犬と赤ちゃんのくつ下
うちの近所、東京の下町にある根津神社には、とてもカッコイイ二匹の狛犬がいます。筋肉隆々の太い足、ピンと立った尻尾、そして見得を切るような迫力の表情。勇ましいだけでなく、現代アニメを
その頃のこと。いつものように狛犬のそばを通りかかったときに、ちょっとした違和感がありました。赤ちゃんの小さなピンクのくつ下が、狛犬の足元に置かれていたのです。たぶん、落とし物のくつ下が汚れないように、探しに戻ったときにすぐ見つけられるようにと、やさしい気持ちで誰かが台座に置いたのでしょう。
そんなピンクの可愛らしさと、筋肉隆々の勇ましさの対比を目の当たりにしたとき、なんだか不思議な感覚におちいりました。狛犬たちが会話しているような気がしたのです。「おいおい、なんだこれ。俺の足元にこんな緊張感のないものを置いてくれるなよ」「でもさぁ。この小っちゃいくつ下、めちゃくちゃ可愛いなー」
その日以来、散歩に来るたび二匹の狛犬の間に立って、会話に耳をそばだてるようになりました。「おい、おまえの尻尾に、蜘蛛の糸が一本張ってるぞ」「えー、取ってくれよ」
「今日は自慢の巻き毛の調子がイマイチだ」「きっとこれから雨が降るにちがいない」
そのように聞き耳をたてた結果、絵本『こまいぬぼしゅうちゅう』が生まれました。二匹のおかげで、絵本を作ることができた感謝を伝えに行ったところ、狛犬たちはこのように話していました。「あーあ、おれたちの夜中の姿をばらしてくれたな」「やれやれ。あっちの秘密だけは、ばれないように気をつけないと」
なるほどなるほど。では今度は〝あっちの秘密〟についてなんとか聞き出して、次に作る絵本に生かしたいと思います!
(おざき・げんいちろう おざき・ゆきな)●既刊に『かくれんぼ』『おなおしやのミケばあちゃん』『おしいれじいさん』など。
ひさかたチャイルド
『こまいぬ ぼしゅうちゅう』
尾崎玄一郎 尾崎由紀奈・作・絵
定価1,430円(税込)