日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『こまいぬ ぼしゅうちゅう』 尾崎玄一郎 尾崎由紀奈

(月刊「こどもの本」2024年1月号より)
尾崎玄一郎 尾崎由紀奈さん

狛犬と赤ちゃんのくつ下

 うちの近所、東京の下町にある根津神社には、とてもカッコイイ二匹の狛犬がいます。筋肉隆々の太い足、ピンと立った尻尾、そして見得を切るような迫力の表情。勇ましいだけでなく、現代アニメを彷彿ほうふつさせるデフォルメもされていて、ユーモラスな親しみも感じます。我々はこの狛犬が大好きで、こどもが小さい頃にもお散歩コースとしてよくこの神社に来ていました。

 その頃のこと。いつものように狛犬のそばを通りかかったときに、ちょっとした違和感がありました。赤ちゃんの小さなピンクのくつ下が、狛犬の足元に置かれていたのです。たぶん、落とし物のくつ下が汚れないように、探しに戻ったときにすぐ見つけられるようにと、やさしい気持ちで誰かが台座に置いたのでしょう。

 そんなピンクの可愛らしさと、筋肉隆々の勇ましさの対比を目の当たりにしたとき、なんだか不思議な感覚におちいりました。狛犬たちが会話しているような気がしたのです。「おいおい、なんだこれ。俺の足元にこんな緊張感のないものを置いてくれるなよ」「でもさぁ。この小っちゃいくつ下、めちゃくちゃ可愛いなー」

 その日以来、散歩に来るたび二匹の狛犬の間に立って、会話に耳をそばだてるようになりました。「おい、おまえの尻尾に、蜘蛛の糸が一本張ってるぞ」「えー、取ってくれよ」

「今日は自慢の巻き毛の調子がイマイチだ」「きっとこれから雨が降るにちがいない」

 そのように聞き耳をたてた結果、絵本『こまいぬぼしゅうちゅう』が生まれました。二匹のおかげで、絵本を作ることができた感謝を伝えに行ったところ、狛犬たちはこのように話していました。「あーあ、おれたちの夜中の姿をばらしてくれたな」「やれやれ。あっちの秘密だけは、ばれないように気をつけないと」

 なるほどなるほど。では今度は〝あっちの秘密〟についてなんとか聞き出して、次に作る絵本に生かしたいと思います!

(おざき・げんいちろう おざき・ゆきな)●既刊に『かくれんぼ』『おなおしやのミケばあちゃん』『おしいれじいさん』など。

『こまいぬ
ひさかたチャイルド
『こまいぬ ぼしゅうちゅう』
尾崎玄一郎 尾崎由紀奈・作・絵
定価1,430円(税込)