『ゆうやけにとけていく』ができるまで
『ゆうやけにとけていく』の原案を考え始めたのは、全国的に新型コロナ感染症が広まり始めた2020年の初頭。人間達がオロオロ動揺している中、外の世界は、新芽がうるうると立ち上がる美しい春でした。鬱屈とした毎日でしたが、窓から外に目をやると、雲は自由に流れ、空は異常なほど鮮やかに輝いて見えました。
心をどこに持っていけば良いのかわからない、そんな時期に、幼なじみの友人が脳の病気で亡くなりました。コロナ禍で病室には中々入れず、パソコンの画面越しに声をかける日々。最後まで諦めず前を向き、懸命に頑張ったのですが、友人は逝ってしまいました。友人を見舞う中で、何度かこれまで描いた自身の絵本を贈ろうとしたのですが、何を選べば良いかわからず、結局最後まで贈ることができませんでした。悲しみと不安の中にいる人に、そっと寄り添い、励まし慰めてくれるような絵本を作りたいと、その時、切に想いました。このような時期、経験から、描きたいテーマが膨れ上がるように、頭から筆を握る手に伝わっていきました。そうしてできた絵本が『ゆうやけにとけていく』です。夕焼けの時間は、一日のようで、一年のようで、はたまた人の一生のようで。この夢幻的な時間ならば、誰にでも等しく光が届くような気がして、本作のモチーフとしました。夕焼けは、どこか哀しさを帯びているけれど、実は、一日の中で最も美しく優しい時間だと私達は思います。夕焼けをテーマにした詩も、たくさんあります。朝や夜を書いている詩よりも、夕焼けの時間の詩が私達の心に強く残っていました。
金子みすゞさんの詩「石ころ」や、吉野弘さんの「夕焼け」、堀口大學さんの「夕ぐれの時はよい時」にはとても影響を受けています。この絵本『ゆうやけにとけていく』も、絵や言葉から、いろんな感情が想起される、夕暮れ時の詩のような絵本になっているといいなと思っています。一日の喜びも悲しみも全てが、夕日にとろとろと溶けて浄化され、明日の生きる力となりますように。
●既刊に『がっこうにまにあわない』『きのこのこ』(得田之久/文)、『あかんぼっかん』など。
小学館
『ゆうやけにとけていく』
ザ・キャビンカンパニー・作
定価1,870円(税込)