かけがえのない時間
わたしはこれまでに、幽霊を見たことがあるという人や、死神らしき姿を見たという人に、何度かお目にかかったことがあります。
わたし自身はまったくそのような経験はありません。けれど実際にいるのかどうかわからないそれらの存在を、とても神秘的で興味深く感じました。そういった思いもあり、今回の作品をつくるに至りました。
物語に出てくるルイは、最近ゲームなどに夢中で、飼い犬のロッキーとあまり遊ぶことがありません。そんなある日のこと、ルイの目の前に突然、死神が現れました。そして「ロッキーはもうすぐ死にます」と告げます。そして、死神と出会ってからルイの行動に少しずつ変化が起きていくのです。
わたしたちだれしもが、いつか必ず大切な人との別れを経験します。でも、その別れの日がいつ訪れるのかは、だれにもわからないのです。二十年後かもしれないし、明日かもしれないのです。
時間や命が有限であるからこそ、こうして生きている時間、だれかと過ごす時間がいかにかけがえのない時間なのかを気づかせてくれます。忙しい日々でも、時にはそれらを意識して過ごしていきたいものです。
死神というと、何だか怖いイメージを抱いている方も多いのではないでしょうか。
ところが、本作の死神はとても繊細であたたかい雰囲気です。こんな死神がいたらぜひ会ってみたいと思いました。アンマサコさんがすばらしい画力で、想像していた以上の世界観を表現してくれました。全ページ息をのむほどの美しさです。
この「死神です」は、3作続くシリーズになっています。2作目は死神から余命宣告をされたおばあさんのお話です。どうぞお楽しみに。
(ありた・なお)●既刊に『じごくバス』『じごく小学校』(以上、安楽雅志/絵)、『おいで…』(軽部武宏/絵)など。
光村教育図書
『死神です』
有田奈央・文/アンマサコ・絵
定価1,540円(税込)