オーサカ・マジカル・シティ
「急に何を言い始めたんだ」と思われるかもしれないが、私の母は魔女だ。
それは決して、しょっちゅう日本語ではない謎の呪文を唱えているからだとか(言い間違いともいう)、よく呪物のようなゴツめの指輪をはめているからだとか(当たると痛い)、そういう理由で言っているのではない。
私の母は、人の感情を容易に操る魔法が使える。もっと具体的に言えば、「人を笑顔にさせる魔法」だ。
魔女は、身近な人はもちろん、店員さんなんかにも冗談をかまして笑わせてしまう。かつて保護者面談で担任を笑わせすぎて、面談出禁になったこともある。「よくやるよ」と私が呆れると、魔女は決まってこう答える。「あたし、大阪のオバチャンやから」
どうやら魔女の里・オーサカには、魔女以上の猛者がゴロゴロしているらしい。実際、母方の一族が集まると、狭い六畳間がボケとツッコミで埋め尽くされる。「ウケるまでボケる、ウケたらもっとボケたおす」。そんなオーサカお笑いスピリッツを感じながら、私は魔法にかけられるがまま。オーサカ、なんて恐ろしい街だ。
一方、私は生粋のカナガワの民だ。魔女の血はあんまり遺伝せず、「真面目」「大人しい」と言われて育った。でも、そう言われるたびに少し悔しかった。魔女みたいに笑顔の魔法を使えるようになりたい。そう思って生きてきた。
だから、そんな悔しさと憧れを詰め込んだ物語を書いた。それがこの『相方なんかになりません!』だ。オーサカ生まれの男の子が、カントウ生まれの女の子を巻き込んで、たくさんの笑いを届けるラブコメディ。最高じゃんか。いや、最高やろ。そう思って妄想をしたためたら、本当に運よく編集さんに「面白い!」と言ってもらえた。
あのはやり病やあの戦争。ものの値段もつり上がるばかり。そんな世界に生きる子どもたちに、少しでも「笑い」をお届けできたなら。もう、それしか考えずにこの物語を書いております。
私の「魔法」、あなたにウケたら幸いです。アカンかったら、堪忍な。
(とおやま・かなた)●既刊に「相方なんかになりません!」シリーズ、『学園ミリオネア 100万円ゲーム』など。
集英社
『相方なんかになりません! 心晴にライバル!? 真夏のビーチで大ピンチ』
遠山彼方・作/双葉 陽・絵
定価770円(税込)