日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ドロップイン!』 あさだりん

(月刊「こどもの本」2023年10月号より)
あさだりんさん

挑戦者へのリスペクト

 2021年に開催された東京オリンピックで、忘れられないシーンがあります。

 スケートボード・パーク女子の決勝。予選ではトップだった選手が、着地に失敗して転んでしまったのです。無難にまとめることをよしとせず、自分の限界に挑んだ末の転倒でした。思わず泣き出してしまった選手に、ほかの選手たちが駆けよって抱きしめ、肩車をして場内を歩きだしました。転んだ選手は涙をこぼしながらも、いつしか笑顔をうかべていました。

 わたしはそのシーンを見て、あるスケボー好きの人から聞いた言葉を思い出しました。「スケートボードでは、挑戦する人がなによりもリスペクトされる。たとえ失敗したとしてもね」と。

 わたしは中学生のとき、バレーボール部に所属していました。四十年近く前、まだ「スポ根」が当たり前だった時代です。ミスをすればコーチに怒鳴られ、試合に負ければ一列に並ばされて順番にビンタされました。

 たいして強くもならないまま、三年間を終えました。もともと不器用者であるうえに、緊張のあまり体に余分な力が入って、さらに動けなくなっていたように思います。失敗すれば怒られるとわかっていたので、自分から挑戦することもありませんでした。

『ドロップイン!』を書くにあたって、スケボー好きの人たちに話を聞かせてもらいました。スケボーの楽しさはなにかとたずねると、口をそろえてこういいます。「ずっと練習してきたトリック(技)が初めてメイク(成功)できたときが、いちばんうれしい」と。自分で工夫しながら練習を重ねて、できなかったトリックがあるときできるようになる。その瞬間が最高なんだよ、と語る表情はまぶしいものでした。トリックを完成させるまでの努力を知っているからこそ、ほかの選手に対するリスペクトも生まれるのでしょう。

 そんな風にスポーツを楽しめる新しい世代を、少々うらやましくも思います。若い挑戦者たちを、これからも応援していきたいです。

●既刊に「まっしょうめん!」シリーズ、「科学でナゾとき!」シリーズ、『一撃をねらえ!』など。

『ドロップイン!』"
金の星社
『ドロップイン!』
あさだりん・作/酒井 以・絵
定価1,540円(税込)