まみむめもりの なかまたち
『たのしいピクニック』
いしいむつみ/さく、ひらおかひとみ/え
2012年7月
小さい頃、一度は憧れたことありませんか? 森で暮らす動物たちの世界を。私はシルバニアファミリーでよく遊んでいた、夢みがちな子どもでした。石井睦美さんのテキストを初めてよんだ時、そんな昔を思い出すような懐かしさを覚えました。欲張りな私は、もっとこの世界を味わいたくなり、当初「よみもの」として雑誌に掲載されていたこの作品を「絵本」として出したいと企画。お話は、動物たち各々がピクニックに誘いに友達の家へいき展開していくわけですが、結局どの家も留守でした。一連の経緯を見ていたのがカラスです。絵本なら、このカラスの存在がより効果的に出せそうです。
石井さんは早速、絵本版のテキストを書いてくれました。頁をめくる楽しさがあふれています。挿絵は先の雑誌同様、平岡瞳さんにお願いしました。絵本の挿絵は初めての挑戦。控えめながらも「わくわくしています」と答えてくださったその言葉には、力強さを感じました。
しばらくして、ラフ画がUP。今でもその時の驚きは忘れられません。森に朝日がさしこむ情景の美しいこと! 動物たちの家々の可愛いこと! ラフ画とは思えないほど繊細な鉛筆画でした。当時平岡さんは、主に版画で制作活動をされていたので、この絵本も本番は木版白黒1版刷り+手彩色で、と考えていました。ところが、ラフ画の筆致に心を奪われた私は、次の言葉が口から飛び出していました。「すべて色鉛筆でかいてみませんか」
「やってみます!」と即答してくださったのですが、今となっては、あの勢いで言われたら断れないかも…です。平岡さんはこの点でも初めての挑戦でした。
お話には、うさぎのにんじんジャムのサンドイッチ、くまのはちみつ入りホットケーキ、きつねのおいなりさんなど、おいしい食べ物がたくさん登場します。「いい匂いが立ちのぼってくるような絵本に」というのもコンセプトのひとつでした。完成した原画は、色鉛筆の温もりが画面一杯に満ち、おいしい匂いだけでなく、森の木々や花の香り、夏の暑さまで伝わってくるような仕上がりでした。そして森の全貌を俯瞰した絵は圧巻でした!
こうなると、石井さんのなかで森のイメージが更に広がっていきます。『まみむめもりって しっている? あいうえおいけに かきくけこやま、なにぬねのはらの あるところ』という前袖の冒頭文。実はこれは、平岡さんの絵を見てから誕生したものでした。石井さんのアイデアに脱帽したと同時に、テキストが絵と合わさった時の魔法のようなものを感じました。絵本作りの面白さを実感した瞬間です。
この絵本を読んで、ひとりでも多くの子どもたちがまみむめ森の扉を開き、空想の世界を楽しんでくれたら、と願います。カラス探しも楽しめますよ!