ヤモちゃん なにしたい?
以前、雑誌「おひさま」にのせてもらったものをベースに、新しく絵本を作ることになった。
ヤモリのヤモちゃんが主人公というのはもう決まっているので、あとはお話を考えるだけ。
それなら楽勝じゃん!と思っていたのだが甘かった。今回は(今回も?)本当になんにも出てこなかった。
そうこうしているうちに、どんどん締め切りが迫ってくる。ヤモちゃんヤモちゃん、お家の守り神。ナニトゾナニトゾ絵本になるよう、力を貸してくだせえ。家でヤモリを見つけると、そうお願いしたりした。
でも、やっぱりな〜んにも思い浮かばない。もうこうなったら、とにかく思いつくものを片っ端からスケッチブックに描いていくことにしよう。
ヤモちゃんと雪だるま、ボツ。ヤモちゃんが空を飛ぶ、ボツ。ヤモちゃんの友達のヤモリがでてくる、ボツ。ヤモちゃんなぜかハワイにいく、ボツ。
ヤモちゃんはな〜にがしたいの? どこに行きたいの? 描いても描いても答えてくれないヤモちゃん。そして出来上がったのは結局いつもの動物たちにぴたっとくっつきたい、いつものヤモリのヤモちゃんの話になった。
「も〜う、ヤモちゃん離れてよう」と動物たちに言われても
「え? だって〜だって〜」
と言いながら、ヤモちゃんはニコニコしている。そうか。ヤモちゃんは、特別なことがしたいんじゃなくて、知らない場所に行って冒険したいんでもなくて、いつものように、みんなにぴたっとしたかったんだな。
いろんな人がいていい。甘えることができる嬉しさとか、そんなことが言いたくてこの絵本を作ったわけではない。
ただ、ヤモちゃん今日は、なにしてるんだろうなあ? と考えていたらこうなっただけである。
自分で作っておいてこんなこと言うのも変だけど、
「へえ? こんな絵本になるんだ」
そんな気分である。
(いしい・きよたか)●既刊に『ふってきました』『おこだでませんように』『こぶとりじいさん』など。
小学館
『ぴたっとヤモちゃん』
石井聖岳・作
本体1,300円