初の物語絵本、重版出来!
テリー・ファン&エリック・ファン 作/増子久美 訳
2021年3月刊行
弊社は1954年創業の自然科学書出版社です。60年以上にわたり、化学に打ち込む研究者と学生に向けた月刊誌「化学」と、専門課程向けの教科書出版を担ってきました。そんな老舗出版社がコロナ禍の2020年、突然に絵本を出し始めたのですから、書店さんや他の版元さんはさぞ驚かれたことと思います。それまでもサイエンスを子供たちに伝えるノンフィクション絵本や図鑑は発行していましたが、フィクションの分野への参入は大きな挑戦です。そこには、「絵本をきっかけにまず本を好きになって、そして科学に興味をもって、将来また化学同人の本を手に取るような人になってほしい」という願いと、「優れた海外絵本の世界をもっと日本に紹介したい」という意気込みが込められています。
この作品のストーリーの主軸は少年の空想冒険譚で、おじいさんが話してくれた〝海とそらがであう場所〟を見つけるべく船出した少年が目にする幻想的な世界を美しいイラストレーションが表現しています。とはいえ、絵本分野に初挑戦のわが営業部、2020年当時には、この新刊をどのようにアピールすればいいか、そして目の前のコロナ禍をどう乗り切ればいいのか……、模索と試行錯誤の日々でした。
その突破口となったのが、「これって〝あの〟ファン・ブラザーズの新作ですよね」という問い合わせでした。恥ずかしながら、当時はまだ絵本の話題本をフォローできておらず、『夜のあいだに』(ゴブリン書房さん)を知らなかったのです。「緻密な筆致と色彩で独特の世界観をかもしだすファン・ブラザーズの作品にはファンがついている。」これは、当時の営業部にとって一筋の光明となりました。
しかし本当なら2021年の1月刊行だったところ、輸入品カバー全量が不良という事態が起こりました。「美しい本」を期待してくださっている読者に不良本を届けるわけにはいきません。刊行をずらし、カバーを国内で再生産し、ようやく3月に発売できるようになりました。
刊行が延びたことで営業活動期間が延びたのは不幸中の幸いでした。これまでは書店の児童書担当の方に弊社はほとんど認知されておらず、〝化学同人が絵本?〟といった反応だったのですが、この作品には多くの書店様から事前注文をいただくことができました。美しいイラストレーションを気に入ってくださり、店頭でパネル展を展開させてくださったお店もあります。この作品のおかげで、書店の方にも〝化学同人、絵本もあるぞ!〟と知ってもらえたのではと感じています。
本作にはその後も図書館様や個人読者からの注文が続き、おかげさまで、絵本事業で最初の重版作品になりました。2刷が輸入されてくるまでの数か月、たまっていく注文書を横目にやきもき過ごしていたことを思い出します。
追記:この原稿作成中に「第13回ようちえん絵本大賞」受賞という、とても嬉しいニュースが届きました。