日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ぼくんちのねこのはなし』 いとうみく

(月刊「こどもの本」2022年2月号より)
いとうみくさん

書くことで支えられた

 わたしは、愛猫家ではない。

 十七年前、息子にせがまれて近所に生まれた子猫をもらい受け、十六年間共に暮らしてたけれど、わたしはずっと、自分を愛猫家だとは思わなかった。

 どこかで猫はペットだという思いがわたしの中にはあったからだ。

 むろん、かわいいし、愛しいし、大切なうちの猫ではあったのだが、家族かと問われたら、自信をもってうなずくことはできなかった。

 けれど、それがわたしと猫とのいい距離感でもあるのだと思っていた。

 一昨年、猫の具合が悪くなった。あわてて病院へ行くと、高齢の猫には多いといわれる腎不全だと診断された。

 食いしん坊で、食べ終わってもおかわりをねだっていたのに、エサを食べなくなった。一日中、じーっと丸くなっていることが多くなった。

 毎日のように病院に通い、気がついたら一日中猫のことばかり考えて、ため息をついたり、どうにかならないのかとネットで検索をしたり……。

 なにをどうすればいいのか、ただただ気持ちが落ち着かない。そんなとき、ふと、いまこの状況を書いてみようと思った。ただし、日記や記録ではなく、物語として書こうと。

 主人公は小学四年生の男の子と母親だ。二人に、飼い猫とわたしの状況をかぶせるようにして、毎日綴っていった。ある日は迷いながら、ある日は不安になりながら、またある日は泣きながら……。

 書いていると、不思議と気持ちが落ち着いて、ああそうだ、と自分の気持ちを整理したり、気づかされることも少なくなかった。書きながら泣くことで、不思議だけれど、ほんの少し気持ちが落ち着いたりもした。

 隣で寝ている猫によく、「いま、ことらのお話を書いているんだよ」と、話しかけた。

 そのたびに、ことらは先の白いしっぽをちょんと動かした。

 ことら、元気にしてますか。

『ぼくんちのねこのはなし』、ようやくできたよ。

(いとうみく)●既刊に『きみひろくん』『あしたの幸福』『レッツ キャンプ』など。

『ぼくんちのねこのはなし』
くもん出版
『ぼくんちのねこのはなし』
いとうみく・作/祖敷大輔・絵
定価1,430円(税込)