書くことで支えられた
わたしは、愛猫家ではない。
十七年前、息子にせがまれて近所に生まれた子猫をもらい受け、十六年間共に暮らしてたけれど、わたしはずっと、自分を愛猫家だとは思わなかった。
どこかで猫はペットだという思いがわたしの中にはあったからだ。
むろん、かわいいし、愛しいし、大切なうちの猫ではあったのだが、家族かと問われたら、自信をもってうなずくことはできなかった。
けれど、それがわたしと猫とのいい距離感でもあるのだと思っていた。
一昨年、猫の具合が悪くなった。あわてて病院へ行くと、高齢の猫には多いといわれる腎不全だと診断された。
食いしん坊で、食べ終わってもおかわりをねだっていたのに、エサを食べなくなった。一日中、じーっと丸くなっていることが多くなった。
毎日のように病院に通い、気がついたら一日中猫のことばかり考えて、ため息をついたり、どうにかならないのかとネットで検索をしたり……。
なにをどうすればいいのか、ただただ気持ちが落ち着かない。そんなとき、ふと、いまこの状況を書いてみようと思った。ただし、日記や記録ではなく、物語として書こうと。
主人公は小学四年生の男の子と母親だ。二人に、飼い猫とわたしの状況をかぶせるようにして、毎日綴っていった。ある日は迷いながら、ある日は不安になりながら、またある日は泣きながら……。
書いていると、不思議と気持ちが落ち着いて、ああそうだ、と自分の気持ちを整理したり、気づかされることも少なくなかった。書きながら泣くことで、不思議だけれど、ほんの少し気持ちが落ち着いたりもした。
隣で寝ている猫によく、「いま、ことらのお話を書いているんだよ」と、話しかけた。
そのたびに、ことらは先の白いしっぽをちょんと動かした。
ことら、元気にしてますか。
『ぼくんちのねこのはなし』、ようやくできたよ。
(いとうみく)●既刊に『きみひろくん』『あしたの幸福』『レッツ キャンプ』など。
くもん出版
『ぼくんちのねこのはなし』
いとうみく・作/祖敷大輔・絵
定価1,430円(税込)