日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『たんけんケンタくん』 石津ちひろ

(月刊「こどもの本」2012年8月号より)
石津ちひろさん

ケンタくんは私の分身!?

 沖縄の八重山諸島にある、竹富島をはじめて訪れたのは、いまから七、八年前のこと。

 島の気候風土、豊かな自然、おいしい食べ物、そして人々の毅然とした生き方…これらすべてによって、私はいっぺんに島のとりこになったのでした。

そのとき以来、竹富島は私にとって、心のオアシスともいうべき場所になっ ています。

 しばらく仕事に追われる日々が続いたりすると、すべてを投げ出して、あの、湿度が高いのに、なぜかさわやかな、独特な空気の中に我が身を置きたい…という欲求に駆られるのです。

 そんなわけで、その日も私は、竹富島のあちらこちらを、一人でゆったりと歩いておりました。

すると、痩せっぽっちの猫やら、人なつっこいバッタやら、空をゆうゆうと泳ぐ雲やら、その他さまざまなものから、声をかけられたのです。

さらに、一羽の鳥からは「回文を作って!」と頼まれてしまいました。私が驚きながらも、「喜ぶ鳥、飛ぶ頃よ」という回文を披露したところ、満ち足りた声で鳴いてくれたのでした。

そんな体験を、編集者のKさんにお話ししたところ、すぐさま、こんなふ うに提案してくださったのです。

「子どもが、南の島を巡るうちに、いろんな動物たちに出会い、彼らに頼まれて、次々に回文を考えていく…っていう絵本を作りましょうよ!」

主人公が、小学生のケンタくんに決まってからは、物語がどんどん進んでいきました。

どうやらケンタくんには、回文の才能があったようですね。最初は「かいぶんって、なあに?」なんて聞いていたはずなのに、やがて回文に目覚め、回文を作る楽しさにどっぷりと浸かっていったのです。

絵を担当してくださった石井聖岳さんが、南の島の自然やケンタくんのことを、のびやかに描き上げてくださいました。おかげで、楽しみながら回文の達人になれる、一石二鳥の絵本ができあがりました。

(いしづ・ちひろ)●既刊に『サーカスのしろいうま』『なぞなぞのみせ』『ことばあそびどうぶつえん』など。

たんけんケンタくん
佼成出版社
『たんけんケンタくん』
石津ちひろ・作
石井聖岳・絵
本体1,300円