声に出すことの楽しさを
マスクを付けて過ごすことが日常となった今、子どもたちは以前と比べて「話すこと」に対して消極的になっているように感じます。マスクで相手の表情がよく見えず、コミュニケーションが取りづらくなっているのです。
「話す・伝える」という行為は、音声だけでなく「表情」や「仕草」、「息遣い」、「間」など、様々な動作が連動して成立します。表情が見えない中でのやりとりは、大人も子どもも難しく感じて、次第に「話そう・伝えよう」という意欲を削いでいってしまいます。
私はいくつかの小学校で「伝え方」を教えるアナウンス講師をしているのですが、ポイントは多々あるものの、一番大切なことは、相手に伝えようと思う『心』だと話しています。
レッスンでは、学年問わず子どもたちは早口言葉が大好きです。自ら手を挙げ楽しそうに、いきいきと披露してくれます。「面白そう! 話したいな!」そんな言葉が目の前にあると、ついつい口にしたくなるのです。子どもたちには、声に出すことの楽しさをいつも感じていて欲しいと思います。
今回出版させて頂いた『はやくちレストラン』は、カッキクッケコックとサ・シースセーソシェフという愉快な料理人たちが繰り広げるお料理バトルのお話です。ダジャレのような早口言葉がたくさん登場しますが、「この言葉、なんだかおかしいから話してみたい!」とそんな風に自然に思い、声に出して読んでもらえたらとても嬉しいです。
画は、味わい深い独特なタッチが印象的な森あさ子さんの切り絵です。ひとつひとつとても丁寧に描かれ、登場人物の表情もお料理も、どれもユニークで可愛らしく大変魅力的です。今は大勢で食事をすることも難しい世の中ですが、絵本の中なら、料理をしたり味わったり、冗談を言ったり張り合ったり……色々な経験ができますね。
また、このお話をきっかけに、「この早口どうかな?」等、言葉遊びを楽しんでもらえたら尚嬉しいです。
再びマスク無しで笑いあえる日が、一日も早く訪れますように。
(もぎ・あきこ)●既刊に『こどもアナウンスブック』(常世晶子との共著)、『りんごごろごろ』(森あさ子/絵)など。
金の星社
『はやくちレストラン』
もぎあきこ・作/森 あさ子・絵
定価1,430円(税込)