日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ23
『きらきら』『しゃかしゃか』 くもん出版

(月刊「こどもの本」2021年6月号より)
『きらきら』『しゃかしゃか』

絵本への入り口を広げたい

新井洋行 作
2020年5月刊行

0歳から絵本を、ということが広がって久しいですが、ねんねの赤ちゃんは初めての絵本に、目に見えた反応を返してくれるとは限らないもの。「うちの子は絵本にあまり興味がないみたいで」「反応が薄くて」というママ・パパのコメントにさみしくなることもあります。赤ちゃんはきっと喜んでいるし、その先に絵本でしかできないコミュニケーションの世界がひろがっているのに……と。『きらきら』『しゃかしゃか』の2冊には、絵本との出会いを「ごきげん」なものにして、0歳からの絵本への入り口を広げたい、そんな思いがこめられています。はじまりは「キンキラキンに輝く絵本があったら」「絵本に初めてのおもちゃの定番であるラトルを合体したら」きっと赤ちゃんが喜んでくれる!という、作者新井洋行さんのアイデア。そこに、「赤ちゃんは金色を好む」ことを世界で初めて証明した、中央大学の山口真美先生のアドバイスが加わりました。実際に月齢の異なる赤ちゃんに読んでもらい、視知覚発達研究の観点からも、赤ちゃんをもっとひきつけるにはどうしたら?と1画面1画面吟味していきました。おかげさまで、「絵本デビューにピッタリ」「うちの子のお気に入り」といううれしいお声をたくさんいただいています。

新井洋行さんというと、多作というイメージのある作家かもしれません。「こういうことをいうと変に思われるかもしれないけど……」と前置きつきで、「ぼくの頭の中には、アイデアのバス停があるんです。そこでアイデアたちが行列をつくって、バスに乗る順番待ちをしているんです」と打ち明けてくださったことがあります。でもその「バスに乗った」アイデアたちが、すぐに次々と日の目を見るかというと、そうではないと思います。『しゃかしゃか』のアイデアを最初にお聞きしたのは、実は10年前。当時もダミーを何冊もつくっていただきましたが、今のシンプルな形にたどりつくまでアイデアだけが眠っていました。『きらきら』も、構想は他の版元さんにも話していたそうですが、コスト面から先に進まなかったとお聞きしています。アイデアが新しいだけに、実現までにはいくつものハードルがあり、それを突破する強度のあるものだけが形になっていくのでしょう。

私は「親子が笑顔になるとき、その間にあるものをつくりたい」という新井さんの言葉が大好きです。絵本を親子の間にあってこそ生かされるものとしてとらえることから生まれる、やわらかで血の通った発想。次はどんなアイデアを聞かせていただけるのか、楽しみです。

(くもん出版 宮本友紀子)