木が奏でる平和のメッセージ
わたしは広島生まれの広島育ちです。もちろん、平和公園にも行き、たびたび原爆ドームのそばを通ります。しかし、心のどこかで、みんな過去のできごとだと思っていました。四年前に、たまたま新聞記事で見かけた「被爆樹木」という言葉に出会うまでは。
今から七十五年前。広島に原子爆弾が投下されました。強烈な熱線と放射線を、爆風とともに浴びた土壌には、七十五年間草木が生えないといわれました。しかし、爆発の中心地から約二キロメートル以内の場所で生きのび、再び芽吹いた木がありました。そんな木のことを、被爆樹木と呼びます。
今でも焦げ跡の残る木や、曲がったままの木もあります。懸命に生きる木の姿は、未来への希望の象徴になりました。
被爆樹木のひとつに、広島市立千田小学校のカイヅカイブキの木がありました。木は戦後七十年あまり、小学校の校庭で、子どもたちを見守りつづけました。枯れかけたとき、そのいのちを、なんとか子どもたちの未来につなげることはできないだろうか。そう考えた人たちがいました。
やむなく切り倒された木は工房に運ばれ、パンフルートに生まれ変わりました。パンフルートは、木や竹などの管を束にした笛です。
二年前、はじめて千田小学校合唱隊のコンサートに行き、パンフルートの素朴で澄んだ音に触れました。演奏を通して、平和のメッセージが伝わってきました。
「ああ、木はこうして、もう一度生きていくのだな」と感じました。子どもたちの歌とパンフルートの音を聞きながら、このことをわたしができることで伝えたいと思いました。
合唱隊、パンフルート製作者、演奏家、被爆者、そして、被爆樹木をパンフルートにつないだ方たちへの取材を重ねました。
こがしわかおりさんの絵がついたことで、木の言葉のこぼれる絵本になりました。耳をかたむけていただけたら幸いです。
(すやま・ひろみ)●既刊に『逢魔が時のものがたり』『バウムクーヘンとヒロシマ ドイツ人捕虜ユーハイムの物語』など。
少年写真新聞社
『パンフルートになった木』
巣山ひろみ・文/こがしわかおり・絵
本体1,400円