日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ポケモンのしま』 ザ・キャビンカンパニー 阿部健太朗、吉岡紗希

(月刊「こどもの本」2020年4月号より)
ザ・キャビンカンパニー<br />阿部健太朗、吉岡紗希さん

あの頃

 うちのアトリエにはポケモンのぬいぐるみが30匹程います。このぬいぐるみは、私達が子どもの頃、おばあちゃんが縫ってくれた手作りのものです。当時10歳。私達はポケモンが大好きでした。

 平成元年生まれの私達にとって、ポケモンは「子ども時代」そのものです。1996年からポケモンが社会現象となっていく、その真っただ中に、アニメの主人公のサトシくんと同じ10歳の私達はいました。ポケモンを見ると、同時に、あの頃見ていた景色が思い起こされます。登下校の道、友達の声、草むらの匂い、森の中の秘密基地、おでこに光る汗、大きな入道雲。心や頭で見ているものと、実際に存在しているものが、トロトロと混ざり合い、世界は広々と、夢幻的で、美しかったように思います。この「子ども時代」の感覚を、私達は作品をつくる上で大切にしています。ポケモンは私達の制作衝動の原点の一つなのです。

 しかし、私達には不安に思う事があります。「ゲームやインターネットを見て育った子どもは実体験の乏しい、軟弱な人間になる」と聞きます。平成の子どもたちは遊び場が減って可哀想だと、哀れまれる事もありました。私達は、不幸な「子ども時代」を過ごしてしまったのでしょうか。そうなのかもしれません。しかし、自分の子ども時代を否定したくはありません。あの頃、夢中になって読んだ本も、友達と走り回った草むらも、木登りも、漫画も、映画も、ゲームも、インターネットも、日常全てが、大切な思い出です。一瞬で過ぎ去る「子ども時代」に、様々な経験をして、色々な考え方ができるようになる事が、子どもたちにとって最も大切な事だと思います。いつかやってくる大人の時代にも、その力は心の支えとなってくれるはずです。

 私達の「子ども時代」が不幸だったのか、幸福だったのか、それは大人になった私達が作っていく、これからの世の中で決まってくるのだと思います。このような心の有り様を絵本の形にして吐き出したのが『ポケモンのしま』です。皆様に何か感じて頂けたら幸いです。

(あべ・けんたろう、よしおか・さき)●既刊に『ゆびさしちゃん』『しんごうきピコリ』『ポコンペンペン ばけがっせん』など。

『ポケモンのしま』"
小学館
『ポケモンのしま』
ザ・キャビンカンパニー・作・絵
本体1,200円