とても遠くて、とても近い本
本書は英国のジャーナリスト、マイク・トムソンさんがまとめたノンフィクションの児童書向け編訳です。
シリア政府軍に封鎖され、空爆の止まない街ダラヤ。しかし、若者たちは命の危険をかえりみず、がれきの中から書物を救い出し、地下に「秘密図書館」を作ります。そこで本を読み、国の未来を語り合い、絶望的な暮らしの中に小さな希望を見出そうとした若者たち。本を読むことの大切さを教えてくれるノンフィクションです。
本書はわたしたちにとても遠くて、でもとても近い本だと思います。
「シリア内戦」というと日本の多くの読者にとって遠い世界の話に思えるかもしれません。でも、本書の中に登場するのは、図書館や書物を宝物のように守ろうとしたバーシトやアナス、サーラやアムジャドたち若者や子どもたち。わたしたちと同じ、本が大好きな人たちです。
わたしはこの本を、そんな登場人物一人ひとりの顔が見えてくるような、息遣いが聞こえてくるような作品に編訳し、日本の読者に届けようと考えました。日本の子どもたちに、本が大好きなアムジャドやバーシトやアナスに出会ってほしい、と願いました。
なぜなら、出会うことで広がる世界があるからです。
本との出会いは、人との出会いと似ていると思います。人との出会いに人生が拓かれるように、1冊の本との出会いから広がる世界がきっとあります。
シリアは遠い国かもしれないけれど、その国では、わたしたちと同じように本が大好きで、書物や図書館を大切に思っている若者や子どもたちが、同じ「今」を生きている……。そんな事実を知ることから、「出会い」が始まるのではないでしょうか。
戦場の街で、破壊されつくした街の地下に図書館を作り、本を読むこと、本について語り合うこと、学び合うことでなんとか生き抜こうとした若者や子どもたちの存在が、わたしたちと地続きにあるんだと感じていただけたらうれしいです。
(おぐに・あやこ)●既刊に『?が!に変わるとき 新聞記者、ワクワクする』『アメリカなう。』『魂の声 リストカットの少女たち』など。
文溪堂
『戦場の秘密図書館 ~シリアに残された希望~』
マイク・トムソン・著/小国綾子・編訳
本体1,500円