一人でも百人でも楽しめる絵本を
「この絵本を一緒に読むと、子どもとたくさん話せるんです!」そう言われて、私はとってもびっくりした。だって、自分では真逆の絵本を作っていたつもりだったからだ。
私の絵本は、一貫して登場人物が多く、伏線も盛りだくさん。何度も読まなければ、全体がわからないほど複雑だ。
そのわけは、入院した時に「何度でも読める本がほしい! 一人でいても退屈しないように!」と思ったから。だからそんな絵本を作ってきたはずだった。
ところがどっこい。自分がたくさん話ができる絵本を作っていたなんて初耳だ! 詳しく聞けば「私はこの子が好き」「あの子はどこにいるのかな?」と、一緒に楽しめるのだとか。
ええっ、そうなの? じゃあ、いっそ一緒に読むための絵本を本気で作っちゃおうか!
そうやってできたのが『10かいだてのおひめさまのおしろ』だ。主人公の女の子がお城の階を上がるごとにドレスやバッグ、さらにはマナーを身につけてお姫様になっていく物語。左ページは各階ごとの部屋の様子。右ページはその部屋にあるアイテムの一覧。ドレスの部屋なら、ドレスがずらっと並んでいる。「お好きなものをどうぞ」と、余白がなくなるほど描きこんだ。
絵本完成後のイベントで、読み聞かせの合間に「どのドレスが好き?」と尋ねてみた。すると、競うように子どもたちから声が上がった。
多分、あの時、確かにみんなで一緒に絵本を読んでいた。たとえ、友だちじゃなくても、ついお話をしたくなっちゃうような。誰かと一緒に読みたくなっちゃうような。「場」を作る絵本。そんな絵本ができたのかもしれない……できていたら嬉しい。
いつのまにか「一人のための絵本」は「一緒に読める絵本」になっていた。そして「もっとたくさんの人と読める絵本」を目指したつもりだ。絵本の中でだって登場人物を増やし、描くものを増やしてきたのだ。こうなったらもっと欲張っちゃおう。一人でも百人でも楽しめる絵本を、なんて。
(のはな・はるか)●既刊に『うさぎマンション』『109ひきのどうぶつマラソン』『めんたんていワンムズ』など。
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『10かいだてのおひめさまのおしろ』
のはなはるか・作・絵
本体1,400円