日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『10かいだてのおひめさまのおしろ』 のはな はるか

(月刊「こどもの本」2020年4月号より)
のはな はるかさん

一人でも百人でも楽しめる絵本を

「この絵本を一緒に読むと、子どもとたくさん話せるんです!」そう言われて、私はとってもびっくりした。だって、自分では真逆の絵本を作っていたつもりだったからだ。

 私の絵本は、一貫して登場人物が多く、伏線も盛りだくさん。何度も読まなければ、全体がわからないほど複雑だ。

 そのわけは、入院した時に「何度でも読める本がほしい! 一人でいても退屈しないように!」と思ったから。だからそんな絵本を作ってきたはずだった。

 ところがどっこい。自分がたくさん話ができる絵本を作っていたなんて初耳だ! 詳しく聞けば「私はこの子が好き」「あの子はどこにいるのかな?」と、一緒に楽しめるのだとか。

 ええっ、そうなの? じゃあ、いっそ一緒に読むための絵本を本気で作っちゃおうか!

 そうやってできたのが『10かいだてのおひめさまのおしろ』だ。主人公の女の子がお城の階を上がるごとにドレスやバッグ、さらにはマナーを身につけてお姫様になっていく物語。左ページは各階ごとの部屋の様子。右ページはその部屋にあるアイテムの一覧。ドレスの部屋なら、ドレスがずらっと並んでいる。「お好きなものをどうぞ」と、余白がなくなるほど描きこんだ。

 絵本完成後のイベントで、読み聞かせの合間に「どのドレスが好き?」と尋ねてみた。すると、競うように子どもたちから声が上がった。

 多分、あの時、確かにみんなで一緒に絵本を読んでいた。たとえ、友だちじゃなくても、ついお話をしたくなっちゃうような。誰かと一緒に読みたくなっちゃうような。「場」を作る絵本。そんな絵本ができたのかもしれない……できていたら嬉しい。

 いつのまにか「一人のための絵本」は「一緒に読める絵本」になっていた。そして「もっとたくさんの人と読める絵本」を目指したつもりだ。絵本の中でだって登場人物を増やし、描くものを増やしてきたのだ。こうなったらもっと欲張っちゃおう。一人でも百人でも楽しめる絵本を、なんて。

(のはな・はるか)●既刊に『うさぎマンション』『109ひきのどうぶつマラソン』『めんたんていワンムズ』など。

『10かいだてのおひめさまのおしろ』"
PHP研究所
『10かいだてのおひめさまのおしろ』
のはなはるか・作・絵
本体1,400円