たんぽぽは希望の花
たんぽぽは、お店で売ることが出来ない花、値段をつけられたことが一度もない花です。寒い冬の間には、ロゼッタという円くてぺっちゃんこの葉を広げ、太陽のひかりを集めるけなげさをもっています。根がお茶になるということは、大人になってから知ったことでした。
花が咲いた後に球形に広がる綿毛の形も不思議で、ふっと吹くとひとつひとつの種が落下傘のようになって空を飛んでいきます。名前は、蕾の形が鼓に似ていたことから、鼓のたんぽんたんぽんという音をとって、たんぽぽになったのだそうです。何てきれいな、いい名前でしょう。
黄色いたんぽぽは小さい子どもたちも、みんな知っています。それで、たんぽぽを使って、春を待ちわびるくまたちのお話を作りました。自然の要素を入れたお話では特に、森の動物たちの家はどうしても木の家か土の家、としたいのです。画家の大島さんは、そのあたりを、うっとりするほどうまく描いてくれました。
また、横を見たときに黒い瞳のわきに出る、くまのしろめがちゃんと描かれています。特にこぐまのしろめは、何ともいえない愛らしい表情を見せるのですが、コロンくんとマロンちゃんの表情に生かされています。
本を開けるとすぐに、あまーい春の香りがする雪の丘が広がります。くまのコロンくんは、もう春になった、と出掛けてしまうのですが……。コロンくんは幾つかの失敗をします。でも、それがみないいことにつながっていくのです。そんなお話が、たんぽぽの明るい黄色の予感にみちびかれるように、すすんでいきます。
今年もたんぽぽはどんどん咲き、ひとの中にある生命力も、たんぽぽといっしょに花咲くでしょう。太陽を小さくしたような花、たんぽぽは知らないまにわきあがって耀き出す、希望の花なのです。みなさんに、このたんぽぽの絵本がとどいて、明るい気持ちが花咲きますように。
(かたやま・れいこ)●既刊に『ほーらね できたよ』(はたこうしろう/絵)、『もりのてがみ』(片山健/絵)など。
ひかりのくに
『たんぽぽのおくりもの』
片山令子・作
大島妙子・絵
本体1,280円