「好きなこと」を主人公に投影
「渚くんをお兄ちゃんとは呼ばない」、シリーズ1巻の「ひみつの片思い」は私のデビュー作になります。ありがたいことに、続刊を出して頂けることになり、現在、6巻の「つきあえなくても好き」まで出ています。これからも続きます。
クラスでは目立たない、自分には何の取り柄もないと思っている、主人公の千歌ちゃん。そんな彼女が、クラスの人気者の男の子・渚くんと、親の再婚で義理の兄妹になり、ひとつ屋根の下で一緒に暮らすことになります。
まさに少女漫画の王道パターン! なお話ですが、千歌ちゃんは、自分でも、その「少女漫画」を描いています。
実は私は、デビュー前から、絵を描いたり漫画を描いたりする人物を書くのが好きで、よく小説の中に登場させていました。
私自身が、子どもの頃、絵を描くのが好きで、友人とスケッチに行ったり、4コマ漫画を描いたりしていたので、「自分が好きなこと」を無意識に登場人物に投影しているのかもしれません。
大人になってからは絵ではなく小説を書くようになったのですが、1巻で千歌ちゃんが漫画を初めて完成させるシーンには力が入りました。ジャンルは違えど、作者の私は、最初から最後まで描き切ることの難しさと、成し遂げた時の喜びを知っているので、千歌ちゃんにも乗り越えてほしくて、書きながらエールを送っていました。
読者の子どもたちからも、「私もお話を書いています」というお手紙をもらうことがあります。物語を読む楽しさだけではなく、作る楽しさも知り始めているなんて、とても嬉しく、頼もしく思います。どうすれば面白い話が書けますか? とも聞かれますが……、それは、むしろ私が知りたい!
渚くんシリーズは、私自身がわくわくしながら楽しんで書いています。巻を重ねるごとに、登場人物みんなへの愛着が増していきます。読者の子どもたちの心の中にも、千歌ちゃんたちが愛すべき友達として存在してくれたらいいな、と願っています。
(よるの・せせり)●最新刊は『渚くんをお兄ちゃんとは呼ばない~絶対ないしょの恋の作戦~』。
集英社
『「渚くんをお兄ちゃんとは呼ばない」(既6巻)』
夜野せせり・作/森乃なっぱ・絵
本体各640円