日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『なまえのないねこ』 竹下文子

(月刊「こどもの本」2019年12月号より)
竹下文子さん

はじまりは名前から

 ペットを家に迎えることになったら、まずするのは、そう、名前をつけること。ぴったりの名前を考えるのはなかなか難しいけれど、これが大きなたのしみのひとつでもあります。

 梅雨どきに、買い物に行く道で箱に入った赤ちゃん猫4匹を拾い、哺乳瓶で育てました。以来36年、わが家にやってきた生き物は、猫以外にも、犬、鶏、うさぎ、ハムスター、山羊、亀など多彩な顔ぶれ。あ、ヒトの子どもも1人。もちろんみんな名前があります。

 顔を見た瞬間に、ぱっと名前が浮かぶこともあれば、うんと悩むこともあります。家族の意見がすんなり一致することも、そうでないことも。

 マドリという猫は、やってきたとき、すでにおとなの野良猫でした。窓からひょっこりのぞいた顔が可愛かったので、「マドレーヌ」と勝手に呼んでいました。やがてオス猫だとわかり、男性名の「マドリーノ」から「マドリ」にしたのです。

 ところが夫は、当時の人気力士の把瑠都ばるとに似ているから「バルト」だと言って、ゆずりません。この子は1年がかりで野良から家猫になりましたが、終生「マドちゃん」「バルちゃん」とふたつの名前で呼ばれながら、のんびりゆったり暮らしました。

 年の瀬に迷い込んできた若いキジトラ猫は、ガリガリにやせて、だしじゃこみたいだったので「じゃこ」と名づけました。うちに来てからはみるみる太り、きなこ餅のようになったので「きなこ」と改名。その後、色もだんだん濃くなり、もうきなこ餅には見えないけれど、名前はきなこのままです。

 わたしの名前の「文子」は、父がつけました。若い頃は文学青年で詩を書いていた父なので、「文」の字に特別な思いがあったのでしょう。いまこういう仕事をしているのは、名前のおかげもあるような気がします。

『なまえのないねこ』は猫の絵本ですが、名前の絵本でもあります。名をつけ、名を呼ぶことで生まれるかけがえのないきずな。そこがすべてのはじまり。たくさん呼んであげてください。

(たけした・ふみこ)●既刊に『まじょのむすめワンナ・ビー』『なんでもモッテルさん』『しゃっくりくーちゃん』など。

『なまえのないねこ』"
小峰書店
『なまえのないねこ』
竹下文子・文/町田尚子・絵
本体1,500円