秘密基地は美術館
久々に書くエンターテインメントです。この「スパイガールGOKKO」シリーズスタートにあたっては、今の時代の子どもたちが喜ぶものは?と考えたりもしましたが、まず作者の私が楽しくなければ書けるわけがないのだワ、と、私が心惹かれるものを詰め込むことにしました。そこで浮かんだのが、「秘密基地」と「美術館」。これらは私のときめき二大ワードで、特に秘密基地は、懐かしい思い出と重なって、特別な思い入れがあります。
たとえばそれが、原っぱの高く茂った草を結んで屋根に見たてた簡素なものでも、木の上のダンボール小屋でも、ここは自分たちの秘密の場所だと思うだけで私たちは至福に包まれ、こみ上げてくる笑いを止められませんでした。
幼い日の私にとって秘密基地は、ここではないどこかにつながるトンネルでした。別の自分に変身し、知らない自分を発見する、想像に浸りこめる特別な「居場所」だったと思います。
でも、身近に原っぱも林もなくなり、恐ろしい事件も多い今、子どもたちはどこに秘密基地が作れるでしょう……。
と思った時に浮かんだのは、バットマンの「バットケイブ」的秘密基地です。あり得ないけれど、こんなことができたらいいなぁ、という私の夢、美術館の片隅を間借りしての秘密基地。しかも、私はその設定にぴったりな美術館を知っていました。それは写真家の友人夫妻が営む箱根の小さな写真美術館で、私はそこを訪れるたび、いつも元気をもらっているのです。そしてそこを作品の舞台と決めたとたん、物語は動きだしました。
欠けた部分を補い合い、互いに尊敬しあえる友人関係。彼女たちを見守りつつ、後押しする個性的な大人たち。現実には、ありそうでなさそうな日常です。でも、だからこそ、読んでくれる人と一緒にそんな世界を楽しみたい。そして終わりはハッピーエンド。
ちょっと辛い日、この本を読みだしたら、束の間だけど辛いより楽しいが上回った……そんな感想が聞けたら幸せと、それを目指して書いています。
(くん・くみこ)●既刊に『風と夏と11歳』『なつのおうさま』『あのときすきになったよ』など。
ポプラ社
『スパイガールGOKKO 極秘任務はおじょうさま』
薫 くみこ・作/高橋由季・絵
本体1,300円