判決の出ないワクワク
NHK Eテレ「昔話法廷」制作班 編
2016年8月~刊行
「なんかすごいよ、この番組!」
夫がテレビを見ながら興奮気味にいうので、家事の手を止めていってみると、こぶた(の着ぐるみ)が法廷の証言台でうなだれています。
「トン三郎が犯した罪は、刑法第一九九条の『殺人罪』に当たります」と起訴状を読み上げている検察官は、テレビでよく見る女優さん。弁護人や裁判長、裁判員も俳優さんたちが演じています。着ぐるみと(人間の)俳優さんたちが繰り広げる法廷劇に釘付けになり、すっかり家事はあと回しになっていました。番組はNHKEテレの「昔話法廷」。裁判員制度を考える小学生から高校生向けの番組です。誰もが知っている昔話の登場人物が訴えられたら……という設定で作られています。
冒頭で紹介した「三匹のこぶた」裁判の被告人は、末っ子のこぶた。オオカミを殺したこぶたは正当防衛で無罪か、計画的殺人で有罪かが争点です。
オオカミの母、長男・トン一郎が証人として呼ばれ、トン三郎への被告人質問、最終弁論と法廷劇は続いていきます。そのシュールな光景にワクワクして画面に見入っていると、「有罪か、無罪か、どっちなんだろう」と裁判員のセリフが流れて番組は終了。なんと判決が出ないのです。昔話の登場人物にしてやられたような感じで呆然とすること数秒。しかしすぐに「これを本にしたい!」という思いに駆られていました。
幸運にもNHKさんから書籍化の許諾はいただけましたが、どう書籍化するかは難問です。番組を初めて見た時の興奮を、ちゃんと読者にも伝わるようにしなければなりません。さらにできれば本だけの・何か・をつけたい。番組のディレクターさんと相談しながら、本には評議のシーンをつけることにしました。番組の映像で6人の裁判員役の俳優さんたちを目を凝らして見て、3~4人の裁判員をピックアップ。服装などから、主婦とか学生など、人物のおおよその背景を設定し、評議のシーンを考えました。
番組の趣旨に則り、書籍でも判決は出しません。ただ死刑を扱った『昔話法廷Season3』に登場する「さるかに合戦」裁判だけは、評議のあと評決のシーンも入れ、5人目の裁判員が自分の考えた結論を話すところまで入れました。
誰が何をしたか、何をいったか、事実はどれか。シュールなドラマの中で、その一つ一つを楽しく論理的に考えられるのが「昔話法廷」の最大の魅力。書籍でも、読者がもうちょっとヒントをと思う寸止めのところを心がけています!