「恋愛」によって見えてくる生物の進化
進化論は誤解されやすい科学理論です。たとえば家畜を自然に戻すと先祖返りするのだ、そういう俗説があります。いくら品種改良しても生物の本質は残っていて、人の手から離れるとバネのように本来の姿へ戻る、こういう理解ですね。
しかし、進化論の提唱者であるダーウィンさんはこう考えました。生きものの姿は周囲から加えられた力と、それによって決定された枠組みで決まる。自然界では、自然から与えられた型に。人が違う型を用意すれば、その型に。再び自然の型に戻せば、その型に。容器の中の水のごとく、姿が変わる。これが進化論の根底にある理解です。
ですがここで疑問が生じます。クジャクがその典型例ですが、動物のなかには奇妙に美しかったり、あるいは理解しがたい飾りをもつものがいます。それもたいがいは雄だけがもっていて、雌にはそういう特徴が見られません。美しさと派手さ、それも概して雄に対してのみこんな型を用意するのはいったい何者でしょうか? 自然ではないでしょう。自然には美を感じる能力がないからです。ダーウィンさんが注目したのは雌の好みでした。雌なら美しさを感じることができます。雄の美しさと派手さは、好みという枠組みを与えられてその姿を確定するに違いありません。恋愛によって生物を理解する。これは画期的なアイデアでした。
恋愛では雌が雄を選ぶのですから、当然、雄は雌に対していろいろなアピールをします。かくて世界はさまざまなプロポーズが乱れ飛ぶ場となりました。踊るもの、プレゼントをするもの、花びらなど美しい飾りでアピールするもの。そんな雄たちのアピールも、それは雌の好みに合わせたもの。だとすれば、プロポーズ摩訶ふしぎ、というよりは、女の子の好み摩訶ふしぎ、と言うべきかもしれません。そして女の子の好みも、理由がはっきりしないものから、打算的なもの、納得できるものまで、これまたさまざまなのです。この地球を動かすパワー。なんてことでしょうか、それは恋愛なのでした。
(きたむら・ゆういち)●既刊に『改訂新版 深海魚摩訶ふしぎ図鑑』『生きものお宅拝見!』『ダーウィン『種の起源』を読む』など。
保育社
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北村雄一・絵と文
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