光るしかけに子どもたちが目を輝かせる
『トリックオアトリート!』『メリーメリークリスマス!』
岡村志満子作
2016年9月~刊行
『トリックオアトリート!』は二〇一六年、『メリーメリークリスマス!』は二〇一七年に刊行した、岡村志満子さんの絵本です。蓄光インクを使った光るページが特長なので、通称は「ひかるえほん」シリーズ。どちらも一年のうち短い期間、店頭に並ぶ本ですが、とくに『トリックオアトリート!』は、シーズン毎に一万部以上重版するヒットとなりました。
岡村志満子さんとの出会いは、十年以上前。当時、海外で絵本を発表しつつ、デザイナーとして活動されていた岡村さんに、ある展示でしかけえほんのダミーをみせていただいたのですが、紙の絵本って、こんなふうにも楽しめるよね、と提案されているような独特の視点が印象的でした。その後、日本でもデビューされ、あらためて声をおかけしました。
そのころ、ハロウィン関係の別の絵本が好調で、日本でもハロウィンがどんどん浸透してきていること、また体験が低年齢化してきていることを感じていました。ただ、既刊のハロウィン絵本は行事を紹介するものや、翻訳絵本が中心で、低年齢の子どもと読める絵本が、まだ少なかったのです。岡村さんなら、面白いものを考えてくれるかもしれない。読者参加で、小さい子にもわかりやすく……そんな漠然としたイメージをお手紙でお伝えすると、すぐに、当意即妙のラフが届きました。子どもたちが一番楽しみにしている、仮装して、よそのおうちをたずね、お菓子をもらうイベントが、そのままくりかえしになっていて、次はどんなおうち?どんなおかし?とページをめくらせます。どうして今までなかったの?と思うくらい、ハロウィンの楽しさが凝縮した一冊となりました。
蓄光インクを使うことにしたのは、私が祖父江慎さんの展示を見て、光るインクの部屋がとても面白かったことをお話ししたのがきっかけだったと記憶しています。蓄光インクを使った絵本は昔からありますが、この絵本は、ただ光るのではなく、蓄光インクでうかびあがる絵が、ちゃんと物語の一部になっています。これも、絵の一部を単純に光らせることに飽き足らなかった岡村さんが試行錯誤の末、編み出してくださった工夫です。
大変好評だったため、すぐにクリスマス編も作っていただきました。こちらも、一冊目以上にワクワクする形で、蓄光が生かされています。デジタル技術の時代に、「光る」だけで子どもの目がこんなに輝くのか、と驚くほどですが、そこに親と子、読み手と聞き手のコミュニケーションが生まれるからこそ楽しい。そんな紙の絵本の魅力を、岡村さんは本当によくご存じなのだと思っています。