日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おしりのあな うみへいく』 工藤光子

(月刊「こどもの本」2018年11月号より)
工藤光子さん

おしりのあなに込めた想い

 構想18年、文章を書いて9年。ようやく出せました。すっかり我が子は大きくなり、ゲラゲラ笑ってはくれず、すでに恥ずかしがる年齢、残念。

 私は生命科学の研究成果を伝える仕事をしています。展示・映像・グッズなど手法はさまざまですが、その対象は、すでに生命科学に興味をもっている学生や一般の人たちです。ですから、この絵本は、私にとって初めての幼児・児童向け作品となります。

 私は何を伝えたいのだろう、伝えられるのか、自分と向き合いました。結果がお尻の穴というのが我ながら笑えますが、これは興味をもってもらうためのしかけです。帯にも入っていますが、クソ真面目です。でもやっぱり読み手も聞き手も作り手も笑っちゃう絵本にしたかったので、こうなりました。

 モノづくりが大好きで、動物が大好きで、読書といえば『シートン動物記』だった私は漠然と生物学に憧れ、理学部に入りました。知の担い手になるという意識の高い理学部で、私は迷子になりました。自分が大好きだった生きものと、その仕組みを理解しようとする営みの乖離にです。今の私は研究成果を伝えるモノづくりに携わることで生命科学という知を楽しむことができるようになりました。

 これは科学の本質は何かということに関連するし、好きなこととどう関わるかということにも関係します。生きものが好きなのか、生きものの仕組みが好きなのか、その仕組みを知るのが好きなのか、自らの手で解き明かしたいか。自然を観察し、大好きだから飼育する、標本として分類整理する、はたして、この延長線上に生命科学はあるのか?

 科学は厳密に定義された営みで、簡単に入り込めないし、他の分野と容易には交わりません。日常と緩やかにつながっているようで、きびしいルールにのっとって行われる知の生産です。この絵本は子どもたちに向けた私なりの「生命科学とは何か」のエッセンスをこめた作品です。どこまで伝わるかは甚だ不安ですが、まずは世に送り出せたことに感謝し見守りたいと思っています。

(くどう・みつこ)●既刊に『DVD&図解 見てわかるDNAのしくみ』(中村桂子との共著)。

『おしりのあな
岩崎書店
『おしりのあな うみへいく』
工藤光子・さく
横山拓彦・え
本体1、300円