日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『となりの火星人』 工藤純子

(月刊「こどもの本」2018年4月号より)
工藤純子さん

「困った子」じゃなく「困っている子」

 毎日同じメンバーと顔を合わせ、同じように勉強し、同じように行動し、同じように遊ばなくてはいけない小学生は、不自由な存在だなぁと思うことがあります。学校には、「みんなと同じ」じゃないといけないような空気があると思うのです。

 でも、みんなと同じではいられない子もいます。「コミュニケーションが苦手な子」「落ち着きがない子」「発達がゆっくりな子」「忘れ物が多い子」「同じ失敗を繰り返す子」「何かのきっかけでパニックになる子」……。これらを個性だという人もいますが、日々の中で本人が困っているのだとしたら、個性ではすまされないのではないでしょうか。

 そんな子たちの中には、みんなと同じことができないばかりに「ダメな子」というレッテルを貼られてしまったり、何度も同じ失敗をして繰り返し叱られるうちに、自分を「ダメな人間」だと思い込んでしまったりする子もいます。それは、不登校、いじめ、自殺といった形で表面化するかもしれません。そうなったときでは遅いのです。

『となりの火星人』は、そんな生きづらさを抱えている子たちの物語です。どの子も人と少し違う自分に戸惑い、悩んでいます。本当はいいところもあるのに、人と違うところにばかり目がいってしまう。小さいころから積み重ねられた劣等感は、簡単に拭い去ることはできません。自己否定しながら生きるのは、つらく苦しく、幸せな未来など描けないでしょう。

 そんなとき、「人と違ってもいいんだよ」という当たり前のことを教えてくれる人がそばにいてくれたら……。「困った子」と突き放すか、「困っている子」と手を差し伸べるかで、その子の人生は大きく変わっていくはずです。

 子どもはすべて、同じ教室で安心して学ぶ権利を持っています。一人一人の生きる力を伸ばし、本書に出てくる子どもたちのように、自分を好きになってほしい。それは「みんなと同じ」であることよりも、ずっと大切なことだと思うのです。

(くどう・じゅんこ)●既刊に『セカイの空がみえるまち』、「プティ・パティシエール」「ダンシング☆ハイ」シリーズなど。

『となりの火星人』
講談社
『となりの火星人』
工藤純子・著
本体1、400円