大妖怪を追って江戸時代へタイムスリップ!
映画にロード・ムービーというのがあります。旅の間にいろいろな事が起こり、最後にはハッピーエンドに終わるというのが定番です。日本では時代劇映画や時代小説にこの型が多く見られます。いわゆる道中物と呼ばれている作品で、お城を飛びだしたお姫様が、身分をいつわって旅をし、若侍と恋仲になるといったものが一般的です。
以前はそうした作品が多かったのですが、最近は世情が厳しいせいか、そういった作品にお目にかかる機会があまりありません。わたしはそうした明朗時代劇(小説)が大好きだったので、常々残念でなりませんでした。
そうした折りだったので、あかね書房さんから新作の依頼を受けたときに、よし、それなら自分が書いてやろうと思い立ち、実行したのが、この〈妖怪道中膝栗毛〉のシリーズです。
書くにあたって留意したのは、わたしは時代小説が好きで、江戸時代についての知識も多少はありますが、読者の子どもたちはどうか、ということでした。そこで、SFの手法を使って、未来の子どもたちが、江戸時代にタイムスリップするという設定にしました。こうすれば、読者である現代の子どもたちが、主人公たちと同じ目線で江戸時代を体験できると思ったからです。
もうひとつ工夫したのは、旅の目的です。ただの旅では面白くありません。そこで、大妖怪・山ン本五郎左衛門を追う旅ということにしてみました。稲垣足穂の山ン本五郎左衛門(「山ン本五郎左衛門只今退散仕る」)にどれだけ迫れるか、自分なりの山ン本五郎左衛門像を描いてみたいというのが、このシリーズの密かな企みでもあります。
ともあれ、蒼太・お夏・信助の三人が、無事に終点の京までたどりつけるかどうか、いまのところ作者も手探り状態です。読者があっという結末で終わることができればいいなと、念じています。
(みたむら・のぶゆき)●既刊に『おとうさんがいっぱい』「風の陰陽師」シリーズ、「キツネのかぎや」シリーズなど。
あかね書房
妖怪道中膝栗毛②
『よろずトラブル 妖怪におまかせ』
三田村信行・作
十々夜・絵
本体1,200円