『ともだちのひっこし』によせて
小学校時代、私には仲良しの友だちのYちゃんがいました。
毎日学校が終わると、お互いの家を行ったり来たり。漫画づくりと、「ごっこ遊び」が大好きで、Yちゃんの家で人形や着せかえで遊ぶときは、いつもたぬきのぬいぐるみ、「ポンタ君」が一緒だったことを覚えています。
けれど、その後、Yちゃんが引っ越しをしてしまい、ときどき「元気にしているかな?」と、思いを巡らせるばかり。
ですから、絵本の題材が「引っ越し」に決まったとき、真っ先に思い浮かべたのは、このYちゃんとの思い出でした。
引っ越しによる別れというのは、卒園や卒業の別れと違って、特別な寂しさを伴いますね。もう会えないかもしれないという不安が、心にぽっかり穴を開けるのでしょうか。
もしもそうだとしたら、その不安な気持ちが、絵本を読むことによって少しでも和らぐといいな、と、私は思いました。
・引っ越しをしたら、もう会えない・という不安感を、・引っ越しをしても、また会える・という希望に変えるくらいのポジティブさがあってもいい。
そうして出来上がったのがこの作品です。
ラストシーンの別れの場面で、主人公のふたりは大事なぬいぐるみを交換し合いますが、それは、またいつか絶対に会えるという希望のシンボルなのです。
さて、冒頭に紹介した私の小学校時代の友人ですが、先日、何十年かぶりに、某所でばったり再会することができました!
目が合った瞬間に、お互いのことがすぐにわかったのも嬉しかったのですが、なによりもっと嬉しかったのは、あのポンタ君が、まだYちゃんの家にいるということ……!
今では、Yちゃんと一緒に美術館へ行ったり、映画を観に行ったりします。遊び方は変わったけれど、今も昔と変わらず、私の大切な友だちです。
(みやの・さとこ)●既刊『あとでって、いつ?』『いちばんしあわせなおくりもの』『おぞうにくらべ』など。
PHP研究所
『ともだちのひっこし』
宮野聡子・作・絵
本体1、300円