小さなトゲから
『ピアスの星』のもとになる短編を同人誌に発表したのは、もう十年も前になります。娘が遠足の班わけで悩んでいた頃だからよく覚えています。
小・中学生にとって、遠足や修学旅行、様々な「班わけ」は、好きな子同士になりたい、にがてな子といっしょになりたくないと、あれこれ頭を悩ませる大問題。人づき合いがにがてな子どもにとっては、つらい時間だろうと容易に予測がつきます。
それでなくても、思春期は、いろんなことを考え、傷つきやすいもろい時期です。娘も心にささったトゲを気にしてくよくよしていましたし、わたしにも、トゲのような言葉を投げつけてくることもありました。
けれど、そんな風にもがいている娘を見つめる中、今しかないこの時期を物語にしてみようと思いたちました。深くささったトゲは、書きたいという意欲をおこさせました。実感があるので、主人公たちは自らよく動き、いきいきとしたセリフを語り、わたしを驚かせるほどでした。鎌倉への遠足、コンビニのあこがれのお兄さん、路上ライブ、イラストレター、次々とアイディアもわいてきました。
ただ、それでもまだ、思いばかりがさき走った作品でした。くもん出版の編集者さんが根気よくつきあってくださり、時間をかけて仕上げたのが、今回の『ピアスの星』です。
まるで、小さなトゲから芽がでて大きく育ち、きれいな花が咲いたようで、とてもうれしいです。
表紙は雑貨デザイナーのtamaoさんの刺繍の力をかりました。一針一針さしていく刺繍のあたたかな風合いと、ゆっくり言葉をつむいでいったこの作品は、どこか不思議に波長が似ていて、おしゃれで気にいっています。
たくさんの人の力を借りて花を咲かせた『ピアスの星』。すばらしい装丁でこの作品を出版することができて、わたしも、登場人物のサヤやハミとともに大きく一歩、前にふみだせた気がしています。
(あかはね・じゅんこ)●既刊に『ごきげんぶくろ』『ミキとひかるどんぐり』『おまじないのてがみ』など。
くもん出版
『ピアスの星』
赤羽じゅんこ・著
tamao・画
本体1,400円