命あるものたちの舞台、開幕です
クマにそっくりな保険屋のおじちゃん。飼い犬と同じ顔で散歩する夫人。ネズミ顔の酒屋のおやじ。子どもの頃、(もしかして、本当は動物?)と思ってドキドキしたことを忘れない。
そんなことを思い出しながら、この物語を編んでいった。
自然や動物たちとの共存。それは当たり前のことなのに、都会暮らしが長くなると、いつの間にか忘れてしまっている。時どきは、便利じゃないところに身を置いて、自然の一部である自分を発見して楽しんでみたい。山の家に、みんなを招待したいなあ。そうだ、都会から山奥のペンションに引っ越していこう、どんなお客さんが来てくれるかな? 書き進めるうちに、そんな世界に入りこみ、動物たちと一緒に山に向かって叫んだり、川で遊んだり、星を見上げたりした。
編集者と画家の方々が、その世界を共有してくださり、校正だけでなく、一緒に、展開される話をもとに地図やペンションの間取り図を作成してくださった。これが実に楽しい作業で、贅沢な仕上がりに深く感謝している。
主人公の新菜が家族と、都会を離れ山奥のペンションに引っ越してくる。新たに始まる不便な生活に不安を感じる新菜の心のように、山道はくねくねと細くなっていく。
この冒頭部分を、ベテラン編集者のアドバイスのもと、画家の岡本美子さんが漫画仕立てにしてくださった。
それが三ページ続いたあと、ようやく中扉タイトルで、ペンションの入り口のイラストがくる。
始まりは、「車のエンジン音が止んだ」だ。便利な現代社会が途切れ、自然に囲まれた生活が始まっていく。
ペンション・アニモーへ泊まりに来るお客様ごとに、章立てをした。
ミュージカルスターを目指す宇佐美さんの章では、劇中劇あり。
最終章では、今までのお客様が大集結。全体を大きな劇に仕立てて、フィナーレ開始で物語は幕を引く。命あるものたちの舞台を、子どもから大人まで楽しんでほしい。
(みつおか・まり)
●既刊に『給食室のはるちゃん先生』『タンポポ あの日をわすれないで』『シャイン・キッズ』など。
汐文社
『ようこそ、ペンション・アニモーへ』
光丘真理・作
岡本美子・絵
本体1、400円