犬と歩けば
犬と散歩をしていると、毎日たいへんですね、と声をかけられることがあります。そういうときは、いい気分転換になるんですよ、と答えています。犬と一緒にいると、いつもと違うルートを歩いたり、犬に声をかけてくれる人に出会ったりすることがあるからです。
それに犬は、たとえ決まったコースを歩いていても、またこの道なのねとか、あの店でジュースを買ってとか、歩くのめんどくさいよーとか、言わないし、初めてその道を歩くように、楽しそうです。
子どものころに犬を飼っていたときも、いろいろでかけました。あのころは犬とどこへだって入って行けたから、母からの頼みを聞いて、市場や商店にお使いにもでかけました。
今では時代が変わり、子どもが犬をつれて散歩している姿は、ほとんど見かけません。最初に犬をほしいと言ったのは、たぶん子どもだと思うのに。動物とふれ合えるだけでなく、町や人と思いがけない出会いをすることもあるのに残念に思います。
この小説では、少年の小さな成長とともに、そういう散歩の楽しさみたいなものも、描きたいと思いました。ただ歩くだけでも、楽しいんだ、ということが、小説を通じて、伝わったらと願っています。
迷い犬の飼い主探しが、ストーリーの中心になっていますが、ほかにも読みとってほしいことがあったのです。
しばらく児童書は書いてませんでした。ぼくを以前児童書に導いてくれた、ひこ・田中さんに久しぶりに会い、犬を飼っているとこういうことがあるんですよ、と話したら「それ、児童書で書いてみて」と言われたのがきっかけとなり、この本が生まれました。
もちろん犬がいなければ書けなかったわけですが、ひこさんがいなかったら、この本はありませんでした。
ひこさんに「子どもの本として書いてほしい」と言われている話が、もう一つあります。早く子どもの本の棚に並ぶよう、がんばろうと思います。
(にしだ・としや)
●既刊に『両手のなかの海』『そして僕等の初恋に会いにゆく』など。
徳間書店
『ハルと歩いた』
西田俊也・作
本体1、500円