タイムトンネルを抜けて
アラヤシキ(新屋敷)は、北アルプスのふもと、長野県小谷村の真木集落にある古民家です。真木は50年程前に過疎のため廃村になりましたが、その後「共働学舎」というグループが新たに入村しました。かれらは「共に働き、共に学ぶ」という精神のもと、100年以上前に建てられた集落でもひと際大きなアラヤシキで共働生活を始めたのです。かれらは「競争社会でなく協力社会を」を目指し、今の社会に肉体的・精神的な生きづらさを抱える人も、そうでない人も、だれもが持つそれぞれの能力を尊重し、共に学び、助け合いながら暮らしています。みなで農作業をし、食事を作り、食べ、同じ時間を過ごすのです。そんなかれらの春夏秋冬を撮影し、記録したのがこの絵本です。
自動車道路のない真木までの1時間半の山道は、都市の時間で暮らしているぼくが、自然の時間へと戻るための大切な道のりになりました。このタイムトンネルを抜けると、都市では感じることの少なくなったものたちが出迎えてくれます。樹木の移ろい、季節の収穫、動物の鳴き声や気配、川や雨の音、草の香り、雪の重み、時間の流れ。
アラヤシキの住人たちは、毎日てんでんばらばらに暮らしています。朝の日課であるラジオ体操もバラバラ、農作業もバラバラ。作業がゆっくりな人、手早い人、いろいろな人がいますが、決してそれが矯正されるようなことはありません。もちろん怒ったり、喧嘩することもあります。それでも、暮らしの重なりのなか互いを認め合い日々を過ごしています。ここでは、それぞれが固有の時間を持っていて、その時間の中で生きているからです。
〝あなたという人は、地球始まって以来、絶対いなかったはずです。あなたという人は地球が滅びるまで出てこないはずなんです。〟
これは「共働学舎」の創立者・宮嶋眞一郎先生の言葉です。同じ「いのち」でも同じ人は絶対にいないのです。ひとりひとりがいて、ともに暮らす、そんなかれらの1年を絵本でぜひ体験してみてください。
(もとはし・せいいち)
●既刊に『うちは精肉店』『アレクセイと泉のはなし』『炭鉱〈ヤマ〉』など。
農文協
『アラヤシキの住人たち』
本橋成一・写真と文
栗山 淳・構成
本体1、600円